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法人向けビジネス
リスクマネジメント
ホールセール業務ゼミ
3時限目 実践講座

一人ひとりがリスクマネージャー

がんばっていますね。2時限目はちょっと難しかったと思いますが、しっかり理解できましたか?課題2も考えてきてくれましたよね。私の講義も今回で最後。営業店の渉外業務で役立つ「リスクマネジメント」のスキルを、ぜひ身につけてください。

私、斎藤が担当する「リスクマネジメント」ゼミも、いよいよ最後の講義に入ります。3時限目では、2時限目で勉強したリスクマネジメント技術を渉外業務の現場で応用するスキルについて勉強しましょう。あなたが銀行に入行して営業店に配属された時、すぐに役立つ実践スキルになります。まず、課題2の解答をかねて、「顧客のキャッシュフローの予測」から講義を始めます。

#Step01顧客の将来のキャッシュフローを予測しよう

第一線でのリスクマネジメントの実践について、事例をもとに講義を始めましょう。まず、2時限目に出題した課題2の解答について考えます。

1)まず、課題2の解答を考えよう

さて、みなさんは1時限目で、新しいリスクマネジメントでは不動産などの担保価値よりも、与信先の将来のキャッシャフローを重視することを学びましたね。また2時限目では、信用リスクの最終判断を行なうのは、定性情報を把握できる現場の法人取引担当者であることにもふれました。課題2は、あなたが法人取引担当者となって与信先のキャッシュフローを予測することで解答がでます。課題2はこんな問題でした。

【課題2】

あなたが担当する次の3つの貸出があるとします。

(1)一般消費者向け量販店の仕入資金

(2)工場の建設資金

(3)法人税の納税などの決算資金

それぞれの貸出に対する返済期限を、 次の3つの中から設定してください。

A.3年

B.1年以内

C.3カ月

あなたなりの解答を用意していますね?

答を出した人は、資料1をクリックしてください。

資料-01

課題2の解答

(1)一般消費者向け量販店の仕入資金の場合

モノを仕入れて消費者に売るビジネスの場合、仕入れと同時に完売できるわけではありません。つまり、仕入れ資金を借入れた場合には、商品が全部売れるまで返済することができません。販売に要する期間がどのくらいかは商品の種類にもよりますが、量販店では一般的には1~3カ月程度だといえるでしょう。したがって、返済期限は「3カ月」を選択することが妥当です。

(2)工場の建設資金の場合

工場の建設資金は、返済するまで時間がかかります。なぜなら、工場が完成してから、製品を生産して販売し、利益を上げて少しずつ返済していく必要があるからです。したがって、返済期間は「3年」を選択することが妥当でしょう。

(3)法人税の納税などの決算資金の場合

こうした決算資金は、毎年必要とされるものです。したがって、1年以上の返済期間を設定すると、次の決算期に食い込んでしまい、返済が困難になる怖れがあります。そこで、返済期間は「1年以内」とするのが妥当です。

解答は、

(1)一般消費者向け量販店の仕入資金→C.3カ月

(2)工場の建設資金→A.3年

(3)法人税の納税など決算資金→B.1年以内

どうです?あなたの答は正解でしたか。

2)最適の貸出を実現するチェックポイント

課題2の解答からわかるように、資金の貸出には、与信先の将来の動きを予測した上で返済などの条件を決めることが必要不可欠です。それでは、顧客の将来を見極めるためには、どんな情報に注目すればよいのでしょう。ここで資料2をクリックしてください。

資料-02

●定量的なチェックポイント

●過去の売上高の推移

●過去の利益率

●資本金

●借入金

●資産構成・・・など

いずれも決算書などの財務諸表に現れます。

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●定性的なチェックポイント

●今後の事業計画

●最新の販売・仕入動向

●設備投資の予定

●所有不動産や在庫などの実態価値

●取引先の動き など

これらの情報は財務諸表には表れないか、表れるまで時間がかかります。法人取引担当者が日頃から観察して入手する必要があります。

2時限目で勉強した信用リスクの計量化モデルに定量情報を入力することで、与信先のリスクはかなり客観的に判断することができます。しかし、過去の業績からのみでは、将来を十分に予測することはできません。法人取引担当者であるあなたが、信用リスクの定量モデルと定性情報を組み合わせることで、貸出すか否か、貸出す場合にはその条件をどう決めるかの最終判断を下すのです。

3)“与信判断”とは、契約の内容そのものなのだ

貸出を行なう場合には、企業にとって最適の方法を探すことが重要です。いくらの貸出が適当か、どんな返済方法が妥当かなどの契約内容を、あなたと与信先との間でつめることになります。課題2の解答からもわかるように、たとえば返済原資を確保するのに長期間かかると予測されるケースに対し、短期の返済計画は妥当ではありません。資金を回収できないリスクが高まるばかりか、与信先をデフォルト(債務不履行)の危機にさらすことになります。資金の借入申込から、貸出、回収までの流れをみつめ、与信先の状況にあわせ最適の契約内容を設定することが、本当の“与信判断”なのです。

次は、あなたが経営コンサルタントになる例題が待っています。

#Step02リスクを生まないコンサルティング

格付など信用リスクの計量化手法を渉外業務に活かすことで、与信先の信用リスクの低下を未然に防ぐことも可能です。こうしたコンサルティングについて、事例を通して学びましょう。

1)例題:在庫を長期間抱えた企業のケース

信用リスクの計量化手法の確立により、格付など与信先企業の客観的な信用指標にあわせた与信管理が可能になりました。つまり、客観的に評価されたリスクの程度にあわせて、与信先が無事に資金を返済できるように的確なコンサルティングを行なうことも法人取引担当者の仕事になったのです。そこで、次の例題を考えてください。

【例題】

あなたが担当するA社の格付が低下しました。A社の利益率はこのところ大きく低下し、また在庫が大きく膨らんでいます。A社の格付を再び上げるために、あなたならどんなコンサルティングを行ないますか?

解答を考えた上で、資料3をクリックしてください。

資料-03

例題の解答

A社の格付が下がったのは、大量の在庫コストが利益率を圧迫したからではないかと推論を立てて、調べてみます。

〈調査結果〉

「在庫を保管する倉庫コストがかさんでいる。」

A社はすでに長期間在庫を抱えていますから、すぐに商品がさばけない何らかの理由があります。ここは、在庫を思いきって整理して、倉庫コストを削減するようアドバイスすることが、利益率をあげることにつながり、ひいては格付を浮上させることにもつながるといえるでしょう。

どうです、解答がわかりましたか?例題は、ちょっとおおげさにいえば経営資源の再配分にふれています。本来、こうした提言は経営コンサルタントの仕事でしょう。しかし、企業のリスクを客観的に把握した上で、経営状況をもっとも身近に判断できる法人取引担当者には、こうしたコンサルティングが可能なのです。

2)顧客企業の格付を守るのも、法人取引担当者の仕事

例題は、在庫コストが利益率を圧迫して格付が低下したケースでした。与信先の格付が低下する場合には、いずれも何らかの定量的な理由が考えられます。その原因を論理的に考えることで、格付の低下をふせぎ、与信先の信用を守るコンサルティングが可能です。

与信先の格付の低下は、それだけデフォルトの確率が高まっていることを意味します。取引先が現実にデフォルトに陥る前に的確にコンサルティングを行なうことは、法人取引担当者が行なう重要なリスク管理といえるでしょう。

3)顧客のニーズにあわせて使える“武器”をもとう

営業店の法人取引担当者には、与信先の事業計画などを直接聞きながら、金融機関の立場で問題点を発見できる強みがあります。また、銀行がもつ総合力を活かして、発見した問題点を解決する方法もあります。与信先の問題点を解決し、顧客にとって最適の契約を結ぶことで、信用リスクは軽減できるのです。そのためには、銀行の総合力を顧客ニーズにあわせてどんどん活用しましょう。法人取引担当者が活用できる銀行機能としては、次のようなものがあります。

資料4をクリックしてください。

資料-04

銀行の総合力

どうです?あなたには、これだけの武器があります。顧客のコンサルタントとして活躍するには十分だと思いませんか?

次は、ポートフォリオ管理を実践してみましょう。

#Step03ポートフォリオ管理を実践しよう

最先端のリスクマネジメント手法であるポートフォリオ管理も、その基本的考え方を理解すれば現場で活用することができます。ここでは、そのための簡単な例題を解いてみましょう。

1)輸出型企業の円高による業績悪化リスクをどうヘッジするか?

2時限目で勉強したポートフォリオ管理について覚えていますか?最先端の手法ですから、その理論を完全に理解するのは難しいでしょう。要は、リスクの要因に対する感応度が異なる資産を組み合わせて、ポートフォリオ全体のリスクを軽減するように、ポートフォリオ構成を調整することです。この考え方を応用して、次のような例を考えてみましょう。

【例題】

業種Aは輸出型企業で、甲銀行の貸出ポートフォリオの中核を占めていますが、円高によって業界全体の業績が悪化し、このため甲銀行の貸出ポートフォリオも悪化しつつあります。ポートフォリオ構成をどのように調整すれば、これを改善することができるでしょうか。

これは、ポートフォリオ管理効果のもっとも基本的な考え方を問うものです。

よく考えた上で、資料5をクリックしてください。

資料-05

例題の解答

ポートフォリオ効果を享受するためのもっとも基本的な対策は、輸入型業のポートフォリオの比率を高めることです。これは、為替変動というリスク要因に対して、輸出型企業のポートフォリオとは異なる影響を受けるポートフォリオを形成し、リスク分散を図ることを意味しています。上のグラフを見てください。輸入型企業であれば円高は原材料のコスト低下をもたらし、業績にプラスに働く可能性が大きいことがわかりますね。輸出型企業のポートフォリオの悪化は、輸入型企業のポートフォリオ改善によってカバーできるといえます。

どうです。ポートフォリオ効果の考え方がイメージできたのではありませんか?

2)業種によるリスク感応度の違いを活用する

それでは、次に自動車業界とタイヤ製造業界という2つのポートフォリオについて考えてみましょう。

資料6をクリックしてください。

資料-06

自動車・タイヤ業界

自動車業界とタイヤ製造業界の利益率の間には、かなり強い相関関係が見られますね。利益率という観点から見る限り、自動車業界の業績が悪化すればタイヤ製造業界の業績も悪化するわけですから、リスク要因に対する感応度はかなり似通っていると推測されます。“この2つのポートフォリオを保有していても、リスク削減効果はあまり得られそうにないぞ”と考えた方は、かなりポートフォリオ効果の基本を理解できたと自信を持ってください。

先の輸出型企業と輸入型企業の例では、為替変動というリスク要因に対して正反対の感応度を示すポートフォリオについて考えましたが、ポートフォリオ効果は必ずしも逆相関でなくても享受することができます。

たとえば、円高に対して業績悪化という同じ方向の影響があるとしても、一方は他方に比べてその影響の程度が小さい、という場合でもポートフォリオ効果は得られるでしょう。しかし、まったく同じ影響が生じるポートフォリオの間では、それらを合算してみても結果に変わりはないのです。つまり、2つの資産が完全に正の相関にない限り、ポートフォリオ全体のリスクは、個々の資産の和よりも小さくなるといえるのです。

利益率の観点から見た自動車業界とタイヤ製造業界のポートフォリオについては、完全に正の相関関係にあるわけではないものの、かなりこれに近い関係といえるのではないでしょうか。

3)信用リスクの最適化は、顧客の利益になる

このように、銀行はリスク分散を図ることによって、ポートフォリオ全体のリスクを軽減させることができます。

これは、顧客にも多大のメリットをもたらすことになります。まず、ポートフォリオ効果によってリスクを小さくできるならば、それに見合って貸出金利を低下させることが可能になるでしょう。また、ポートフォリオの構成を多様化させて分散効果を働かせることが重要だとすれば、銀行は新しく発展しつつある産業についてもポートフォリオを保有するインセンティブが働くので、新興企業の資金調達の道も拡大すると考えられます。さらには、ポートフォリオの健全性を向上させることは、預金者や株主に対する責務を果たすことにもなるのです。

さて、みなさんはリスクマネジメントに向くと思いますか?

何にでも興味をもてるあなたなら、資格有りです。

#Step04誰でもリスクマネージャーになれる、わけではない

リスクマネジメントとは、第一線の渉外担当者すべてに求められる能力。ここでは、そのための資質を学びます。いわば、現代の銀行員として活躍する条件といえるかも知れません。

1)好奇心の広さはリスク管理能力の大きさ

ここまで学んできた信用リスク管理を行なうためには、どのような資質が必要でしょうか?

それはけっして特別な資質ではありません。まず必要なのは、いろんなコトに興味・関心をもつこと。銀行の取引先には、実に多様な業種があります。みなさんが銀行に入行すると、ほとんどの人は、まず営業店で渉外業務を担当することとなるでしょう。その時、どんな業種を担当するかはまったくわかりません。

だから、あらゆる分野に興味を持ち、担当する以外の業界や企業のコトも自分からどんどん吸収する、旺盛な好奇心が不可欠。それでこそ、効果的な定性情報が収集できるというものです。

2)どれだけの情報を引き出せるか?

ここで、少し具体的な事例で説明しましょう。例えば、みなさんが、あるアパレル企業を担当したとします。アパレル業界について興味をもつことは当然ですが、その企業や業界に関連する様々なことに目を配ることも大事です。

中国製品なら中国の景気動向や為替相場、関税制度について勉強しておく必要があります。販売先となる百貨店・スーパーの売上・出店状況については常に最新の情報を入手しておくべきでしょう。また、配送・保管・流通加工(値札付け、検品など)の効率化に関する動きや情報管理システムの導入状況について同業他社と比較してみることも良いでしょう。

この他にも売上高の計上基準や在庫の評価方法(先入先出法、後入先出法等)などといった会計制度、企業年金などの福利厚生制度についての知識も必要です。これらの情報を得ることにより、その企業の強みや弱みが自ずと見えてくるものです。これらはすべて信用リスク管理に不可欠の定性情報といえます。

このように、あらゆることが信用リスク管理の材料になり得ます。新聞の1面から最終面までただ漠然と眺めるのではなく、どんなコトにも興味をもちましょう。逆に、日々の仕事を事務的にこなすだけで自分から情報を集めない人は、リスクマネジメントに限らず銀行業務そのものに向かないでしょう。

あらゆる情報から的確な与信判断を引き出すバンカーであること。それが第一線で活躍するリスクマネージャーの条件です。

3)金融工学の基礎的なロジックを理解しておこう

また、基礎的な統計・金融工学の素養も必要です。高度な理論を完璧に理解する必要はありません。2時限目で学んだような計量的リスクマネジメントの基礎を、論理として理解していればよいのです。現在の第一線の銀行員は、格付や予想損失など信用リスク計量化の理論に、自ら集めた定性情報を加えて個々の企業の与信判断を行なっています。また、取引先の信用リスクを計量的に把握してこそ、的確なコンサルティングや中間管理ができるというものです。

次で、リスクマネジメント講座もいよいよ終了。

最後まで気を抜かずにがんばって!

#Step05リスクマネジメントが広げる銀行業務

新しいリスクマネジメント手法は、信用リスク管理にとどまらず、銀行業務そのものの可能性を広げています。リスクマネジメントが生みだす銀行の新しいビジネスにふれて、この講座を終えましょう。

1)たとえば、リスクを“交換”するデリバティブ

ここまで学んできたリスクマネジメントの技術は、銀行の新商品の開発にも活用され、また新しいビジネスチャンスをもたしています。その代表的な例として、クレジット・デリバティブがあげられます。資料7をクリックしてください。

資料-07

クレジット・デリバティブについて

金利や為替などの市場リスクについてはリスクマネジメント手段としてスワップ、先物、オプション等のデリバティブ手法が活発に利用されています。
クレジットデリバティブは市場リスクばかりでなく信用リスクについても、リスクをコントロールしようとするもので、信用リスクを分解、加工、移転するための手法として、デフォルトオプション、信用スプレッドオプション、トータルリターンスワップなどがあげられます。
例えば、デフォルトオプションとはオプションの買い手がプレミアム(オプション購入料)を売り手に支払うことより、もし買い手が保有するローンや債券にデフォルト等が発生した場合には売り手がその損失を補填することを約する契約です。
これによってオプションの買い手は保有ローンや債券の信用リスクを売り手に移転することができます。

スワップやオプションについてより深く理解したい人は、「デリバティブ講座」を受講してください。ここで最低限理解してほしいのは、クレジット・デリバティブとは、ポートフォリオをコントロールするためにリスクを交換する取引だということ。たとえば銀行が特定企業のリスクを買い取ることも可能です。リスクの計量化によって初めて実現した新しい形態の取引といえるでしょう。

2)企業のリスク測定そのものがビジネスになる

また、銀行が確立したリスク計量化技術を活かし、企業の信用リスクを測定する新しいビジネスも考えられます。

たとえば、小さくても財務体質が優良で将来性のあるベンチャー企業の場合など、信用リスクを計量化して信用力を客観的に評価することで、幅広い金融機関からの借入が容易になるのです。また、高い格付を取得した企業なら、金融機関のみならず、株式市場など直接金融の分野でも資金調達が容易になります。

これらの新しいビジネスは、リスク計量化技術を活かし、銀行が産業界全体の資金の流れを活発にする事業といえます。1時限目の冒頭で勉強したように、銀行も産業界も“どちらもハッピー”になるのが新しいリスクマネジメントです。

3)まだまだ発展途上の日本のリスクマネジメント

3時限にわたって勉強してきたリスクマネジメント技術ですが、日本の金融界全体としては、まだまだ発展途上の段階にあります。特に信用リスクの場合には、市場リスクと比べて多くの課題を抱えているといえます。

その理由の第一として、リスクが現実化するまでのタイムスパンの問題があります。株価変動リスクのような市場リスクの場合には、日々、損益が変動して損失情報が容易に蓄積できますが、信用リスクの場合には、デフォルトの発生によって損失が現実化するまでには取引開始から何年もかかり、デフォルト・データの蓄積には長い期間を要するのです。

また信用リスクモデルは、多くの場合、企業の財務状況とデフォルトの相関性を見ながら開発していくことになるため、デフォルト情報と並んでかなり詳細な企業の財務情報を蓄積する必要があります。銀行の内部に蓄積されている情報は、過去に溯って時系列データとしてデータベース化する必要がありますが、これまで必ずしもデータベース化を念頭に置いていなかった銀行にとっては、とても困難な課題になります。

さらには、開発されたモデルを試行して正確性を確認するというプロセスが必要ですが、これを実施するためには少なくとも数年を要することになり、市場リスク・モデルほど容易には検証することができません。

そして、これまでの講義でも度々述べたように、信用リスク評価には定性要因を加味することが必要ですが、その判定には恣意性の入る可能性も大きいのです。これをどのように扱うか、また定性要因の判定をどのように訓練していくかという課題があります。

このように見ると、リスク管理は、モデルの開発などの専門セクションにとっても、渉外活動の現場においても、まだまだ発展途上の真っ最中というのが実情です。

しかし、このゼミで勉強したリスクマネジメント手法は、もはや世界的な潮流であり、現在のBIS規制(バーゼルⅢ)をはじめとする金融機関の監督・規制基準においてもキーポイントとなる考え方です。新しいリスクマネジメントこそが、銀行をはじめとする金融機関の実力を決めるといっても過言ではないでしょう。これから金融界で活躍するみなさんは、このことを肝に命じて勉強を続けてください。

これで、「リスクマネジメント」ゼミは終了です。

最後に、私からのメッセージをお届けします。

まとめ

「リスクマネジメント」ゼミの受講終了、おめでとう。

最後の最後に、不良債権問題についての私の考えを聞いてください。

「リスクマネジメント」ゼミの受講、お疲れさまでした。よくがんばりましたね。これからの就職活動も、この根気で勝ち抜いて下さい。

ところで、私の講義を終える前に1つふれておきたいことがあります。それは「不良債権問題とリスクマネジメントの関係について」です。不良債権とは、簡単に言えば「貸したのに返してもらえない」「約束通り元金・利息の支払いが行われない」債権のことですが、バブル崩壊から現在に至るまで、「不良債権問題」は銀行経営にさまざまな影響を与えました。この不良債権問題の教訓を踏まえ銀行の融資や信用リスク管理に対する考え方は大きく変わりました。

まず、担保や保証に依存し、貸倒れの恐れがなければ貸す、あれば貸さないという二者択一的な融資のスタンスから、すべての貸出に一定の貸倒リスクがあることを前提に、無担保・無保証でもリスクをコントロールしながら融資を行う方針に転換を図っています。こうした中、一定の範囲の損失を許容するリスクテイク型の融資商品を開発し、中小企業の資金ニーズにスピーディに応えるとともに、財務面を中心に経営改善のアドバイスや再生支援にもより積極的に取り組むようになりました。

また、不良債権の発生に伴う損失の可能性、つまり信用リスクを計量化する技術は、クレジットデリバティブや証券化等の金融工学を駆使した商品にも積極的に活用しています。不良債権そのものがなくなることはありませんが、リスクを一定水準以下にコントロールし、かつてのような不良債権問題、すなわち不良債権が銀行経営や日本経済に重大な影響を及ぼす事態が再び起きることがないように、銀行は鋭意取り組んでいます。

企業の成長や発展を支援し経済の活性化に貢献しながら銀行資産の健全性や収益性の改善につながるリスクマネジメント、それが私たちのテーマです。私の講義で、この最新のリスクマネジメント思想に、より深い興味をもっていただければ幸いです。


投融資企画部 齊藤 優