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法人向けビジネス
リスクマネジメント
ホールセール業務ゼミ
1時限目 基本講座

「リスクマネジメント」を正しく知ろう

この講義は、基本講座・理論講座・実践講座の三部構成です。1時限目の基本講座では、まず身近な例からリスクマネジメントの本質についてイメージし、その上で銀行業務の中での役割をその変遷とともに学びます。

また、2時限目の理論講座では金融工学の側面から見た最新のリスクマネジメント技術を、3時限目の実践講座では営業店の渉外業務に役立つスキルを学びます。

ゆっくり、しっかり理解して、リスクマネジメントの基礎能力を身につけてください。

#Step01まずリスクマネジメントの役割を理解しよう

最新の金融工学に基づいたリスクマネジメントも、身近な例に置き換えるとイメージしやすくなります。そして、その身近なイメージこそが、銀行にとってのリスクマネジメントの本質なのです。

1)リスクマネジメントって、どんなイメージ?

リスクマネジメントと聞いて、みなさんはどんなイメージを持ちますか?そのまま日本語に訳せば、「危険を管理すること」。それに間違いはないのですが、この意味だけでは、現代の銀行のリスクマネジメントを表現できていません。

最新のリスクマネジメントは、銀行が貸出にともなうリスクから身を守るだけではなく、事業資金を求める企業に積極的に資金を提供するための手法でもあるのです。

リスクマネジメントの概念を理解するため、まず身近な例を考えてみましょう。

2)ちゃらんぽらんな友人に、上手にお金を貸し出す方法

ここに、二人の友人がいるとします。一人は、堅実で、約束をたいていは守ってくれるA君。もう一人は、根はいい人なのですが、ちょっとちゃらんぽらんなB君です。二人にはこんな傾向があります。

● A君にお金を貸し出すと、ほとんど返してくれる。
ただ、100回に1回は返せないことがある。

● B君にお金を貸し出すと、5回に1回は返せない。

さて、この二人に安全にお金を貸し出すためにはどうすればよいでしょう?

答を考えてから、資料1をクリックしてください。

資料-01

A君にお金を貸すと、ほとんど返してくれる。

ただ、100回に1回は返せないことがある。

100回に1回返せない分を見越して、貸したお金に1%をのせて返してもらう。

B君にお金を貸すと、5回に1回は返せないことがある。


5回に1回返せない分を見越して、貸したお金に2割をのせて返してもらう。
5回に1回お金が返ってこなくても、損はない

どうでした?あなたの考えた方法は正解でしたか?要は、貸し出したお金が返ってこない確率を見越して、返済額にその分をのせてもらえばいいのです。そうすれば、あなたはちゃらんぽらんなB君にも安心してお金を貸し出すことができます。またB君も、お金を返せず、あなたという友人を失う心配がなくなります。簡単な方法でしょう。でも、これがリスクマネジメントの基本であり、本質的な役割にもつながっているのです。

3)“どちらもハッピー”が「リスクマネジメント」の役割

他人にお金を貸し出す時、もちろん損をしたくはありませんね。しかし、信用の程度が高い人だけにお金を貸し出したのでは、相対的に信用の低い人は、どんなにすばらしいプランを持っていても誰からも相手にされなくなってしまいます。そんな問題をなくし、お金を貸し出したい人も、借りたい人も、どちらもハッピーになることがリスクマネジメントの役割です。

これを銀行の業務に置き換えてみましょう。
資金を貸出す場合、相手が返せない確率を知っていれば、それを事前にカバーする取引が可能です。そうすれば、相対的に信用度が低い相手にも貸出ができます。リスクをあらかじめカバーすることで、幅広い相手に積極的に資金を提供する。それが新しいリスクマネジメントの役割なのです。

どうです?「リスクマネジメント」って意外と身近なものでしょう。それでは本題です。銀行の話に入りましょう。

#Step02反省をこめて、かつてのリスクマネジメントをふりかえる

バブル崩壊を境に、リスクマネジメントの考え方は大きく変わりました。ここでは、かつてのリスクマネジメントについて知った上で、新しい考え方を学びましょう。

1)2つの選択しかなかった、かつての銀行の与信業務

“リスクをあらかじめカバーすることで、相対的に信用力の低い相手とも貸出取引を行なう”--それがSTEP1で学んだリスクマネジメントの考え方でした。実は、銀行をはじめとする金融機関は、’80年代までは必ずしもこうしたコンセプトを持っていなかったのです。当時の銀行の選択肢は、“この相手には資金を貸せるか、否か”の2つだけでした。当時の銀行は、与信先の信用リスクを数量的に把握した情報をほとんど持っていなかったのです。ここで、信用リスクの定義についてふれておきましょう。資料2をクリックしてください。

資料-02

信用リスクの定義

信用リスクとは

与信先の財務状況の悪化等の信用事由に起因して、資産の価値が減少ないし消失し、銀行が損失をかぶるリスク。

信用事由の捉え方

1.デフォルトモード方式

信用事由を債務者のデフォルト(債務不履行)と捉え、それが生じた場合のみ信用損失が発生するとの考え方。

2.MTM方式(MARK TO MARKET)

信用事由を債務者の信用力の変化と捉え、格付の変更を債権価格の変動の代理変数とする考え方。

簡単にいえば、銀行が与信先から貸し出した資金を回収できないリスクが信用リスクです。当時の銀行には、与信先の情報をもとに信用リスクを計る技術や、情報を活用するためのデータベースが整備されていませんでした。それでは、’80年代までの銀行は、何を基準に貸出を行なったのでしょう?

2)土地神話と共に成長した「有担保主義」

’80年代までの銀行が、資金を貸し出せるか否かを判断する上で非常に重視していたファクターは、担保でした。いいかえれば、当時の銀行から資金を借りるためには、担保が必要不可欠だったのです。これを「有担保主義」といい、担保としては不動産が一般的でした。ここで、資料3をクリックしてください。

資料-03

全国市街地価格

不動産の価値は、’80年代までは安定的ないし上昇傾向を示していました。したがって、不動産の担保価値も安定ないし上昇していたため、信用リスクの削減手段としては極めて有効かつ簡易なものでした。

つまり、価格が上昇を続ける不動産を担保にする限り、銀行には高いコストをかけて与信先企業の将来的なリスクを予見する手段を開発するインセンティブは小さかったといえます。貸出額に見合う担保があればYES、なければNO。当時の銀行の与信業務では、このような二者択一的な面が見られました。

さらに、不動産を担保とする「有担保主義」は、’80年代までの高度成長期における産業界のニーズにもそっていました。ここで資料4をクリックしてください。

資料-04

「有担保主義」と産業界のニーズ

戦後の日本は、欧米先進国の基本技術を導入・応用し、価格競争力によって市場シェアを拡大する「欧米キャッチアップ型経済」を進めてきました。その企業行動は、供給サイドに立った大量生産志向として現れます。このように規模拡大志向が強く、物的生産設備が急速なテンポで増大する中にあっては、企業には固定資産の早期資金化の需要が恒常的に高まるため、不動産をはじめとする生産設備を担保として活用し、固定資産を資金化することが合理的でした。

資料4の解説は理解できましたか?やさしくいえば、モノを作れば作るほど売れた時代には、当時の産業は競って工場を建設した。しかし、工場で生産したモノを販売し、建設資金を回収するまでには時間がかかるため、工場を担保に銀行から資金を調達して新たな設備投資を行なった、ということです。これは、戦後の高度成長を支えてきた、膨大な設備を持つ重厚長大産業にとって有効な方法でした。

しかし、’90年代に入りバブルが崩壊すると、事情は一変します。地価は長期の低落傾向に入り、不動産を担保にしても信用リスクをカバーすることはできなくなりました。また、産業構造が変化し、IT、バイオ関連など、膨大な設備をもたずにアイデアや技術力で勝負する新しい産業が生まれてきました。ここにいたって銀行は、「有担保主義」に基づく“二者択一”の信用リスク管理から、新しいコンセプトに基づくリスクマネジメントへと変革を図ったのです。

3)事業のキャッシュフローを担保とする、新しいリスクマネジメント思想

現在のリスクマネジメントの考え方は、不動産などの担保価値ばかりでなく、企業のキャッシュフローに基づく返済可能性や企業の将来価値を重視するようになっています。つまり、その企業が行なう事業によってどれだけの利益が生まれるか、将来的にその企業がどれだけ成長できるかを貸出の基準とするわけです。そのためには、普段からのつきあいを通して、与信先の企業についてよく知ることが不可欠です。その企業が安定して成長するためのコンサルティングも必要です。新しいリスクマネジメントは、銀行も、企業も、どちらもハッピーになるための方法であることがおわかりいただけるでしょう。

それでは、新しいリスクマネジメントに必要なものはなんでしょう?

キーワードは、“観察力”です。

#Step03手を知ることが、リスクマネジメントの基本

新しいリスクマネジメントに欠かせないのは、与信先の企業を観察することです。ここでは、数字に現れない企業の価値を判断するためのモノサシについて学びましょう。

1)まず、簡単な計算をしてみよう

さて、いよいよ現代のリスクマネジメントについての基本的な勉強に入ります。まず例題です。

【例題】

年間10億円の売上があり、利益率10%の企業があるとします。この企業に対し、年間でどれだけの額の返済を前提として、工場を建設するための資金を貸出すことができるでしょう?事業のキャッシュフローを担保に考えてください。

解答を考えた上で、資料5をクリックしてください。

資料-05

年商10億円、利益率10%の企業に工場建設資金を貸出す場合、年間でどれだけの額の返済を前提とするか?

年商10億円で利益率10%ということは、この企業は年間で1億円の利益をあげることになります。つまり、年間で最大1億円までは返済が可能です。したがって、この企業への貸出額は、年間で1億円の返済を上限に組み立てます。

どうです、簡単な問題でしょう。もちろん、実際の貸出業務は、こんなに単純ではありません。でも、事業のキャッシュフローを担保にするとは一体どういうことか、イメージできたと思います。

2)財務諸表は、企業の過去の成績表にすぎない

バブルの時代は、不動産を担保に、実際のキャッシュフローを大きく超える額の貸出を行なっていたケースもありました。その事業からいくらの収益があがるかの判断をしていなかったのです。現在のリスクマネジメントでは、キャッシュフローと、その事業が利益を生みだすまでにどれだけの時間がかかるかという事業サイクルを考慮し、貸出額や返済期間を決めるわけです。

こうした事業のキャッシュフローは、基本的には決算書などの財務諸表を見て判断できます。しかし注意したいのは、財務諸表はあくまで企業の過去の実績にすぎないということ。リスクマネジメントにとって重要なのは、その企業の将来のキャッシュフローを見極めることです。そのためには、与信先企業の動きを観察し、いわゆる「定性情報」を積極的に集めることが必要です。

3)決算書には載らない「定性情報」にレーダーをはろう

ここで、リスクマネジメントにとって重要な「定量情報」と「定性情報」について知っておきましょう。

資料6をクリックしてください。

資料-06

定量情報と定性情報

定量情報

過去の売上高や利益率など、数値として表される情報。決算書など財務諸表から客観的に把握することができる。

定性情報

将来の事業計画や取引先など、財務諸表に現れない情報。企業を緻密に観察し、経営者や社員とのコミュニケーションを図ることで入手する。

たとえば、来年に10億円の資金で本社ビルを建設する予定があるとか、経営不安の取引先があるなど、「定性情報」はその企業の将来のキャッシュフローを予測するために不可欠のモノサシです。また、「定性情報」に基づき、企業に対し的確にアドバイスしながら取引を進めることで、将来のリスクを回避することにもなります。

こうした企業の観察による「定性情報」の収集は、営業店で各企業を担当する法人取引担当者の役割です。私が所属する投融資企画部では、「定量情報」からモデルによってリスクを計量化することはできますが、「定性情報」までは判断できません。投融資企画部が構築する定量モデルと、自らが入手した「定性情報」をもとに融資を判断することが、営業店の渉外担当者の仕事です。リスクマネジメントが、銀行員の一人一人に関わるテーマであることがわかりますね。

このような活動によって、与信先のリスクをより的確に判断することが可能になります。しかし、それは、与信先のリスクがゼロになることを意味するわけではありません。さて、いったい銀行はどうすればよいのでしょう?

#Step04リスクを手なづける

銀行の貸出業務では、「定量情報」や「定性情報」から与信先と最適の取引関係を構築していきます。しかし、それで与信先にデフォルト(債務不履行)が発生する可能性がなくなるわけではありません。そんなリスクを管理するための考え方を学びましょう。

1)リスクを上手に管理するために

「定性情報」と「定量情報」により、与信のモノサシとなる事業のキャッシュフローを予見し、最適の取引条件を設定していくことはわかりましたね。しかし、最適の取引条件を設定できたとしても、それで企業にデフォルト(債務不履行)が発生するリスクが消滅するわけではありません。こうしたリスクに対し、銀行はどう対応すればよいのでしょう?

実は、みなさんはその答をもう知っているのです。STEP1でとりあげた例を思い出してください。5回に1回は貸したお金を返さない友人に安心してお金を貸すためには、返さないリスクを見越して、貸したお金に2割上乗せして返済してもらう、といった内容でした。銀行の場合でも同じこと。

やむなく発生するなどデフォルトに対応するには、リスク分を金利に上乗せして貸出せばよいのです。この考え方を「リスク・プレミアム」といい、金融工学としてのリスクマネジメントの入り口です。

2)リスクを意識していなかった日本の銀行の貸出金利

バブル時代までの日本の銀行は、この「リスク・プレミアム」の考え方を必ずしも厳密には認識してきませんでした。

資料7をクリックしてください。

資料-07

日米銀行の貸出利鞘の推移

貸出利鞘とは、預金と貸出の間の金利の差のこと。日本の銀行の貸出業務の特色として、貸出利鞘が欧米に比べて極めて薄いことがあげられます。日米の銀行について貸出利鞘の推移を比較すると、アメリカでは4~5%ポイント程度の利鞘を確保しているのに対し、日本の銀行は、1~2%ポイント程度にとどまっています。このため、デフォルトが多く発生した90年代後半には、貸出利鞘で不良債権の処理コストをカバー出来ないという事態に陥りました。

つまり、これまでの日本の銀行の貸出金利は預金金利とあまり差がなく、極めて薄ザヤで貸出していたわけです。これにはいろいろな理由がありますが、「有担保主義」もその要因の一つです。つまり、値上がりが確実な不動産を担保にする限り、資金が回収できない信用リスクを考える必要がなく、貸出金利に厳密な意味でのリスク分をのせる考え方は生まれにくかったのです。しかし、これは3つの点で問題があります。資料8をクリックしてください。

資料-08

日本の貸出金利の問題点

(1) 預かった資金を最大限有効に活用するのが銀行の使命。薄ザヤでの貸出は、預金者や株主への責任を果たしていない。

(2) 薄ザヤの貸出では、信用リスクの高い相手先は排除される。たとえば、物的担保を持たず、発展途上にある中小企業の資金需要には応えられない。

(3) 不動産価格の低迷や産業構造の転換により「有担保主義」が後退している現在、薄ザヤの貸出では信用リスクを十分に吸収できない。

こうした問題点を解決するために、バブル崩壊後のリスクマネジメントには次のようなコンセプトが生まれたのです。

3)リスクマネジメントの基本コンセプト

「有担保主義」に基づく従来型の手法に限界が生じてきたことから、リスクマネジメントには3つの課題が生まれました。

資料9をクリックしてください。

資料-09

信用リスク管理の課題

(1)担保に依存しない信用リスク評価の実施

(2)適切なリスク・プレミアムの確保

(3)リスク顕現化への備え

3つの課題を達成するための新しいリスクマネジメントには、統計的手法に基づく計量的な信用リスク管理という考え方が生まれました。すなわち、与信先企業の収益力や財務の安定性などからデフォルト発生の確率を推定し、その信用リスクに見合ったプレミアムを設定することで、平均的な損失(予想損失)をカバーします。また、予想損失を超える部分(最大損失)については、あらかじめ何らかの手当てをしようという考え方です。

「予想損失」とは、簡単にいえば貸出業務を行なう以上“どうしても発生してしまう平均的な信用リスク”を計量化したものです。「予想損失」をカバーする金利を貸出金利にのせることが、(2)の「適切なリスク・プレミアムの実施」です。最大損失とは、統計上予測される最大の信用リスクであり、万が一発生した場合には銀行の自己資本でカバーすることになります。それが(3)の「リスク顕現化への備え」です。

信用リスクを統計的な手法によって計量化することで、発生する損失をあらかじめカバーし、担保に頼らない貸出を行なうことが可能になりました。信用リスクの計量化については、2時限目でくわしく勉強します。ここでは、信用リスクを計量化することで、リスクの程度に応じたきめ細かい対応ができるようになる、ということを覚えておいてください。

ここで、次の時間まで考えておいてほしい課題を出します。

【課題1】

10兆円の貸出残高があり、その利息収入として年間で5000億円を得る金融機関があります。その10兆円の貸出残高に対する予想損失額が1000億円の場合、この金融機関の、実質的な貸出利回りは年何%でしょう?

#Step05リスクマネジメントが、産業の血流を円滑にする

「信用リスクの計量化」の概念がつかめましたか?このようなリスクマネジメント手法が、銀行業務全体に与えた影響を勉強して、1時限目を締めくくりましょう。

1)「信用リスクの計量化」が、いろんなミッションを可能にする

「信用リスクの計量化」により、銀行はより幅広い企業に資金を提供できるようになりました。適切なリスク・プレミアムを実施していれば、平均的な信用リスクはカバーできますから、物的担保にだけ依存する必要はありません。不動産や設備をもたない企業に対しても、貸出の条件次第でさまざまな取引を提案できるようになったのです。このようなリスクマネジメント手法により、産業の血流であるマネーフローが円滑になったといえます。

2)銀行もソリューションビジネスなんだ

また、「定性情報」や「定量情報」により個々の企業を把握することで、銀行は、顧客が困っている問題に対し適切な解決策を提案するソリューションビジネスの側面も備えることになりました。

たとえば商品の販売先を拡大するために企業買収が有効であるとか、国際的な会計基準の変更への対応が必要など、個々の企業の事情を知ることで、リスク判断にとどまらない新しいビジネスチャンスをつかむことも可能になったのです。

現在の営業店の渉外業務は、相手先企業の経営上のソリューションをいかに提供できるかがポイントになっています。そうした可能性は、以前の「有担保主義」を前提とした企業とのつきあいに比べて、格段に拡大しているのです。

3)貸出から回収までをみつめる、本当の“与信”

さらにこのようなリスクマネジメントは、日本の銀行が培ってきた100年のコンセプトさえ変えたと言えます。それは、“与信”の概念です。それまでの与信は、新規の申込に対し、資金を貸すか否かの判断を行なうことでした。そして貸すと決定することは、デフォルトが起こらないと判断したことを意味しますから、一度貸出を行なってしまった後は、デフォルトのリスクに対する認識は稀薄になりがちだったのです。しかし、現在の与信の考え方は違います。ここで、資料10をクリックしてください。

資料-10

与信業務のフロー

どんな企業にも一定の確率でデフォルトが発生する可能性があることを前提に、企業の状態を常にウォッチし、資金を無事に回収するまで管理することを明確に認識する、これが与信業務の基本コンセプトです。

現在の与信業務の基本コンセプトは、貸出から資金の回収までの間の中間管理を極めて重要なものと位置づけています。いいかえれば、資金を無事に回収するまで、企業に対し適切なコンサルティングを続けることが、本当の与信といえるでしょう。物的担保に頼らないリスクマネジメントは、銀行業務そのものを変革したのです。

「リスクマネジメント」の基本的な考え方が理解できましたか?

2時限目では、いよいよ金融工学としてのリスクマネジメント技術について勉強します。

課題を忘れずに考えておいてください。

まとめ

これで1時限目は終了です。

リスクマネジメントの基本がわかりましたか?かなり盛り沢山の内容でした。何度でも復習して、現在のリスクマネジメントの役割について理解しておいてください。次の時間では、「信用リスクの計量化」を中心としたリスクマネジメントの理論と技術について講義を進めます。2時限目も、がんばって受講してください。

課題を、忘れずに考えておいてください。

【課題1】

10兆円の貸出残高があり、その利息収入として年間で5000億円を得る金融機関があります。その10兆円の貸出残高に対する予想損失額が1000億円の場合、この金融機関の、実質的な貸出利回りは年何%でしょう?