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リスクマネジメント
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2時限目 理論講座

「リスクマネジメント」の理論と技術

前回の講義はいかがでしたか?「リスクマネジメント」の役割について理解できたでしょうか。また、課題1は考えてきてくれましたか?今回はいよいよ、金融工学としての「リスクマネジメント」技術について講義します。がんばって受講してくださいね。

1時限目は銀行業務の中での「リスクマネジメント」の役割について身近な例からイメージしてもらうこと、そして銀行業務の中での変遷について勉強しました。

2時限目では、金融工学の側面から、最新の「リスクマネジメント」に不可欠の“リスクの計量化”を中心に講義を進めます。

ちょっと難しいかもしれませんが、第一線の銀行員はみんな理解している知識です。ゆっくり順を追って受講して、最新の「リスクマネジメント」技術の基礎を身につけてください。それでは、2時限目の講義を始めましょう。

#Step01進化するリスク管理技術

2時限目では、信用リスク管理手法の発展過程にあわせて、金融工学としてのリスクマネジメント技術の講義を進めます。まず、1時限目の復習をかねて、第一段階のリスク管理から。

1)デフォルトを考えなかった、初期の与信判断

信用リスクの管理手法は、段階的な発展プロセスを経て現代に至っています。まず、その流れを概観しておきましょう。

資料1をクリックして、開いたままにしておいてください。

資料-01

信用リスク管理システムの発展経緯

(1)の「二者択一型与信判断段階」とは、1時限目で勉強した、’80年代まで行なわれていた手法です。不動産などの担保価値を重視し、企業を与信可能先と与信不能先の2つに分類する信用リスク評価でしたね。

この段階では、与信可能と判断した以上、その企業は原則として将来デフォルト(債務不履行)を起こすことはないと考えます。また、与信可能な企業についてその信用度を厳密に判断するわけではないため、金利にリスク分をのせる「リスク・プレミアム」も必ずしも適切には行なわれませんでした。貸出金利を設定するプライシングには、リスク管理とは別 の論理、たとえば業務推進上の理由などが影響していました。

2)危険な貸出が、かつて行なわれていた理由

与信可能先がデフォルトを起こさないという前提を置き、さらに貸出金利も大差がない。こうした(1)の段階では、銀行が収益を増やすためには運用量、つまり貸出量の増大が不可欠でした。そのため、信用リスクの管理やそれをふまえた収益性の管理といった意識が薄くなり、’80年代までの銀行はもっぱら運用量の増大を業務運営の目標に掲げていました。つまり、積極的に貸出して金利収入をあげることが第一であり、信用リスクを管理する思想は相対的に稀薄であったといえます。かつての貸出が、いかにリスクを内包していたかがおわかりでしょう。

3)“デフォルト率”は計量的リスク管理の基礎データ

(2)の「簡易格付段階」を経て、(3)の「デフォルト確率対応型格付段階」以降から、信用リスク管理は金融工学の色合いを持ち始めます。ここでは、“格付”の前提となるデフォルト率について知っておきましょう。

デフォルト率とは、同じレベルの信用度をもつ企業をグループ化し、その中で債務不履行が発生する確率を数値化したものです。デフォルト率は、1時限目でふれた“予想損失”を算出する基礎データであり、次のSTEPで勉強する企業の“格付”にも関わります。いわば、リスクを計量化するためのもっとも基礎的なデータ、ということができるでしょう。

では、いよいよ本格的なリスクマネジメント技術の勉強に入りましょう。

#Step02銀行が企業に行なう“格付”がある

高度化する信用リスクマネジメントの鍵となる手法が“格付”です。信用リスクを計量的に管理するために、銀行自らが行なう“格付”について学びましょう。

1)“格付”が、回収不能のリスクを回避する

’90年代に入りバブル崩壊の教訓を得たあと、銀行をはじめとする金融機関は、従来型の二者択一の与信判断からの脱却を図りました。そこで登場したのが、企業の“格付”という考え方です。ここで、再び資料1をクリックしてください。この時間はこのフローチャートにそって講義を進めますから、資料1は出したままにしておいてくださいね。

資料-01

信用リスク管理システムの発展経緯

“格付”というと、欧米の格付機関が行なう債券などの評価を思い浮かべるかも知れません。しかし、金融機関にも、自ら与信先企業を評価する格付があります。格付の考え方は’90年代に入って日本の金融機関に採り入れられ始めましたが、最初は良質の貸出と不良債権を区分する程度の簡易なものでした。

しかし’90年代も後半に入ると、大手都市銀行などはデフォルトの発生度合いに応じた信用格付の導入に取り組み始めました。それが(3)の「デフォルト確率対応型格付段階」です。この手法では、STEP1で勉強したデフォルト率の程度に応じて与信先企業を格付けます。格付の高いグループほどデフォルト率は小さくなるといった具合です。

「デフォルト確率対応型格付」の登場により、銀行はデフォルトを前提とした収益・リスク管理を行なうことが可能になりました。つまり、どんな企業でもデフォルト発生の可能性があることを前提に、与信先の信用情報を常に把握し、デフォルトによる損失の発生を極小化するための中間管理が与信業務の一環としてクローズアップされたのです。

ここで資料2をクリックしてください。

資料-02

一般的な債務者格付の定義モデル

これは金融機関による格付の一般的な例をまとめたものです。こうした企業の格付は、どのように行なわれるのでしょうか?

2)デフォルト確率を計測する

ここで初歩的な金融工学が登場します。格付は、個々の企業の信用力を評価し、信用力が同じ程度の企業をグルーピングして何らかの符号を付けるものです。格付をどのくらい細分化するかは、特に定められた基準といったものはなく、各金融機関の貸出構成や顧客数などの状況に応じて適宜決定されます。

ただし、評価者によって格付結果がまちまちになるようなことがあっては、実際の業務運営に活用することはできません。格付結果 には客観性が必要です。そこで信用格付は、計量的なスコアリング・モデルの計測結果 に基づいて付与する手法を取っている金融機関が多いのです。

スコアリング・モデルは、各金融機関がそれぞれ工夫して開発しています。現在、実務上広く利用されているスコアリング・モデルは、基本的には企業の財務データを利用してデフォルト確率を予測するものです。これは、企業の財務データの中から、著しい信用力の悪化(デフォルト)を事前に察知できるような財務比率や数値を見つけ出し、それらの財務指標の状況を得点化して信用力を判別するものです。

ところで、企業のデフォルト確率って何でしょう?いうまでもなく企業がデフォルトを起こす確率のことなのですが、企業は倒産するか否か二つに一つなのに、どうすれば確率がわかるのでしょうか?そう、感覚の鋭い皆さんはもう気づかれましたよね。確かに一つの企業だけをみれば倒産するか否か二つに一つで、確率を知ることはできませんが、もし信用力が同じ程度の企業を多数集めれば、そのグループの中から1年間に何社くらい倒産が発生するかを観察することは可能ですよね。つまり、確率分布を計測すればよいのです。そして、スコアリング・モデルによって高得点を得たグループほど、デフォルト確率が小さくなるようなモデルを構築していくのです。

3)実態情報を加味して真の“格付”が決定される


このように、信用格付はスコアリング・モデルをベースとすることで客観性のあるものになるように工夫されています。ただし、前にも述べましたが、与信取引を行なうにあたってもっとも重要なポイントは、企業の“将来”の返済能力であり、それは必ずしも“過去”の業績結果を示す財務諸表だけで判定できるものではありません。そこで、企業の将来性に影響を与えるような情報を、先程のスコアリング結果に加味して最終的な信用格付を決定することが必要になります。

たとえば、ある企業の前期の業績がいくらよくても、売却の目処が立たない在庫が大量に増加していたり、その企業にとって非常に重要な販売先が倒産してしまったりしていたら、将来どうなるかわかりませんからね。こうした「実態ベースの資力」や「予測される財務諸表」という過去の財務データからは直接導き出すことのできない情報を格付にどこまで活かすかは、銀行によって異なります。財務諸表に表れない情報を元に企業をどう評価するかが、銀行の実力を決めるともいえるでしょう。

銀行が行なう“格付”の意義がわかりましたか?
この“格付”が、リスクの計量化の前段階です。

#Step03いよいよ、信用リスクの計量化技術

現在のリスクマネジメントは、“リスクが大きそうだ”といった大雑把なとらえ方では成立しません。リスクがいくらなのか、実額で把握されなければならないのです。そのための手法である信用リスクの計量化技術を学びましょう。

1)予想損失額を割り出すシナリオシミュレーション

まず資料1をクリックしてください。銀行の信用リスク管理は、いよいよ“計量化”の段階に入ります。

資料-01

信用リスク管理システムの発展経緯

信用リスクの計量化とは、簡単にいえば銀行の貸出にともなう予想損失と最大損失を数値として算出することです。世界の先進的な銀行や日本の大手銀行の一部は、この段階にいたっています。STEP1で勉強した、予想損失と最大損失の概念について覚えていますか?忘れてしまった人は、資料3をクリックしてください。

資料-03

信用リスク軽量化の意義

予想損失とは、銀行が貸出業務の中で平均的に発生する損失額を数値化したもの。最大損失とは、統計上予測される最大の損失額を数値化したものです。最大損失が万が一発生した場合、銀行は自己資本でカバーします。

予想損失額と最大損失額を算出するためには、STEP2で勉強したデフォルト率に対応した格付が前提となります。ここで資料4をクリックして、開いたままにしておいてください。

資料-04

信用リスク計量化の基本的な枠組み

信用リスク計量化の流れを簡単に説明しましょう。まず、格付推移マトリクスを作成することが計量化の第一歩です。資料5をクリックしてください。

資料-05

1年間の格付推移マトリクスの例

これは、1年間で格付がどう変化するかのイメージを表にしたものです。縦軸は前期(N期)、横軸は今期(N+1期)を示します。前期で格付1の企業は、今期も格付1にとどまるケースが81.5%。その信用度は極めて高く、デフォルトが発生する確率も0.0%です。逆に、前期で格付5だった企業が格付1に昇格するケースはまずありません。デフォルト率は0.8%と高く、取引には注意が必要です。

私が所属する投融資企画部では格付モデルを作成しており、最新の決算データを入力すれば自動的にその企業の財務スコアリングが算出されます。現代の銀行では、渉外担当者がモデルを使ってスコアリングを行ない、またそれを基に決定された格付を与信判断や取引交渉などに活用できるように、さまざまなシステム・サポートが行なわれています。

次にこの格付推移マトリクスを用いて、シミュレーション分析を行ないます。たとえば格付5のグループのデフォルト率は0.8%と仮定されているので、これを基にシミュレーションを行ないます。

すなわち、格付5のグループに属する企業数が1万社あると仮定すると、その1万社から任意に80社を抽出し、ここにデフォルトが発生したというシナリオを描いてみるのです。80社の取引データはデータベース化されていますから、かなり現実に近いシミュレーションが可能です。さらに、このシミュレーションでは、業種間や企業間の相関も考慮します(後述)。

こうしたシナリオを描くことによって、実際にデフォルトが起こった場合、いくら損失が発生するか把握することができますね。ただし、ここでシミュレートした80社は任意に抽出した企業ですから、現実にこの80社にデフォルトが起こるかどうかは不確実です。そこで、このようなシミュレーションを繰り返すことで、その企業群がデフォルトを起こすであろうと想定されるパターンがカバーされるのです。こうした手法をモンテカルロ・シミュレーションと呼びます。

そして、すべてのシミュレーション結果をまとめると、次のようなグラフになるのです。

資料6をクリックしてください。

資料-06

信用リスク計量結果

これはモンテカルロ・シミュレーションを用いて計量を行なった信用リスク分布のイメージです。縦軸はデフォルトの発生頻度、横軸はデフォルトによって発生する損失額を表わします。これを見ると、損失方向に裾野が広がっており、統計学でいうポアソン分布を描いていることがわかります。予想損失額はシミュレーションの平均値として算出されます。また、ここでは99%の信頼水準における損失額を最大損失額としています。

2)“自己資本比率”の本当の意味

こうした信用リスクの計量化には、どんな意義があるのでしょう?

資料7をクリックしてください。

資料-07

信用リスク計量化の意義

モンテカルロ・シミュレーションにより、ある格付グループの予想損失額が数値として算出できれば、それをカバーする金利をリスク・プレミアムとして同じリスクをもった企業群への貸出金利に上乗せすることができます。これは与信業務を行なう上で平均的に生じてしまう、いわばコストであるので、「信用コスト」とも呼ばれています。また、予想損失を超えて損失が発生した場合でも、預金の払い戻しに支障があってはならないので、リスク・プレミアムでカバーできないリスク部分、つまり最大損失から予想損失を差し引いた部分については自己資本を保有することが必要になります。

みなさんは、BIS規制についてご存じでしょう。国際金融市場で活動する銀行の自己資本比率について定めた国際規制ですね。実は、このBIS規制にも、信用リスクの計量化手法が大きく影響しているのです。BIS規制では当初、国際市場で活動する銀行の信用リスク規制のため、自己資本比率を総資産の8%以上と定めてきました。しかし、信用リスクの計量化が可能になった今、最大損失から予想損失をひいたものをリスクキャピタルと考え、これが各銀行に要求される自己資本量であるべきだとの考え方から、BIS規制の見直し(バーゼルⅡへの移行)が行われました。自己資本比率を維持する本当の意義は、万が一最大損失が発生した場合でも預金の返済に影響を与えない、リスクへの対応資本を常に備えているということなのです。

3)例題:業種間の相関から、リスクを計量してみよう

さて、もう一度資料4を開いてください。

資料-04

信用リスク計量化の基本的な枠組み

信用リスク計量化の基礎となる〈データセット〉の中に、「相関の考慮」がありますね。この点についてもう少し説明しながら、リスク計量化の例題に挑戦してみましょう。「相関の考慮」の中の業種間および個社間の相関とは、ある企業のデフォルトが他にどれだけの影響を与えるか、ということです。たとえば、仮にある自動車会社が業績不振に陥ったら、関連するタイヤ業界などは大きな影響を受けますね。これが業種間の相関です。こうした相関関係も、信用リスク計量 化の見逃せない基礎データとなります。

それでは例題を解いてみましょう。

資料8をクリックしてください。

【例題】

業界Aと業界Bの関わりから、a社とb社の相関度を計ろう

資料-08

業種間の相関関係

業界Aの中のa社の業績は、業界全体の変動要因でどの程度説明できるか?これを業種寄与率といいます。これを仮に50%としましょう。同様にb社の業界Bにおける業種寄与率を40%と仮定します。また、業界Bの業績は、業界Aの変動にどの程度影響を受けるか、という業種間の相関を30%と仮定します。

このような業種と個社の相関関係をもったa社とb社があるとして、a社の業績が1単位ダウンした時、b社の業績はどうなるでしょう?ややこしいようですが、実は簡単な計算です。答を考えた上で、資料9をクリックしてください。

資料-09

【解答】

a社とb社の業績の相関は、「a社の業種寄与率」と「b社の業種寄与率」と「A・B業界の業種相関度」の積で表されます。

ρa・b(a・b個社相関)=50%×40%×30%=6%

したがって、a社の業績が1単位ダウンするとb社の業績は0.06だけダウンすることになります。

信用リスクを計量化する場合には、こうした相関関係も数値として組み入れ、シミュレーションを繰り返すのです。

リスク計量化の考え方が理解できましたか?
次は、いよいよ課題1の解答を明らかにします。

#Step04銀行経営を健全化するROEマネジメント

信用リスクの計量化は、銀行経営そのものを変革しました。ここでは、予想損失額を銀行の収益率を計る重要なファクターとして取り込んだ、ROEマネジメントについて学びます。

1)まず、ROA、ROEを理解しよう

信用リスクの計量化を取り入れた新しいリスクマネジメントは、銀行経営そのものを健全化しました。信用リスクを折り込んだ利益率を算出することにより、リスクの高い無謀な貸出を抑制することができるようになったのです。ここで、まず’90年代前半までの銀行の利益率についての考え方を見てみましょう。資料10をクリックしてください。

資料-10

ROAとROE

ROA

総資産利益率(Return on Asset)
R(利益)/A(総資産)で算出される。

ROE

自己資本利益率(Return on Equity)
R(利益)/E(自己資本)で算出される。

どちらの指標をとっても、リターン、つまり利益が単純に多いほど利益率は向上します。しかし、この指標はリスクとリターンの相関関係を計算に入れていません。ハイリスク/ハイリターンというように、大きなリターンを得る貸出ほど、リスクは高いのです。ROA、ROEは、信用リスクについてまったく考慮していない、表面的な利益率といえます。

2)課題1の解答:予想損失額を織り込んだ新しい指標

しかし、予想損失や最大損失が計量化できるようになると、信用リスクを折り込んだ利益率を算出することが可能になりました。それがRAROAやRAROCです。資料11をクリックしてください。

資料-11

RAROAとRAROC

RAROA

リスク調整後収益/投入資産量(Risk Adjusted Return on Asset)。見かけの利益から予想損失(Lex)を引いた値を本当の利益と考える。

〈R(利益)-Lex(予想損失)〉/A(総資産)で算出される。

RAROC

リスク調整後自己資本利益率(Risk Adjusted Return on Capital)。見かけの利益から予想損失(Lex)を引いた値を本当の利益と考えるのはRAROAと同じ。さらに、最大損失(Lmax)から予想損失(Lex)を引いた値を自己資本とする。

〈R(利益)-Lex(予想損失)〉/〈Lmax(最大損失)-Lex(予想損失)〉で算出する。

RAROAを利益率の指標とすることで、予想損失の大きさに比べて利ざやの小さい貸出は抑制されます。また、RAROCを指標とすることで、銀行は予想損失を超える損失にも対応できる自己資本を持つことになり、預金者のリスクを最小に軽減できます。このような信用リスクの計量結果を価格政策や資本政策に反映する経営戦略を「ROEマネジメント」と呼んでいます。新しいリスクマネジメント手法は、銀行の業務管理や経営管理の根幹を担っているのです。

さて、ここで1時限目で出題した課題1の解答を出しましょう。こんな課題でした。

【課題1】

10兆円の貸出残高がありその利息収入として年間で5000億円を得ている金融機関があります。その10兆円の貸出残高に対する予想損失額が1000億円の場合、この金融機関の、実質的な貸出利回りは年間は何%でしょう。

ここまで勉強したあなたなら、この課題は簡単に解けるはずです。

解答は、資料12をクリックしてください。

資料-12

課題1の解答

この金融機関の“本当の利益率”を算出するためには、RAROAの方程式を用いればよいのです。つまり、

〈5000億(利息収入)-1000億(予想損失額)〉÷10兆(総資産)=0.04

信用リスクを差し引いたこの金融機関の実質的な貸出利回りは、4%です。

どうでした。あなたの答は正解でしたか?STEP3でもふれましたが、最大損失から予想損失を差し引いた額を自己資本とする考え方は、経営管理ばかりではなく、新しいBIS規則(バーゼルⅡ)上でも根幹となる考え方です。信用リスクの計量化を前提とした新しいリスクマネジメントは、国際金融界の潮流なのです。

3)さらに緻密なリスクマネジメントへのチャレンジ

銀行が行なっているROEマネジメントの手法は、RAROAやRAROCだけではありません。貸出金利の運営や顧客別の評価など、さまざまな指標があります。資料13をクリックしてください。

資料-13

ROEマネジメント

専門的になるので個別の解説はここではしませんが、予想損失額などの信用コストを前提にしたリスクマネジメントが、現在の銀行業務に不可欠であることを知っておきましょう。 私たちの銀行では、さらに緻密なROEマネジメントとして、資本コスト、つまり株主の期待値を業績指標に折り込む考え方も検討しています。ROEマネジメントとは、銀行経営の健全化を通して、株主や預金者に貢献するものでもあるのです。

2時限目も、次のSTEPでいよいよ終了。

現時点での最先端のリスクマネジメントにふれておきましょう。

#Step05ポートフォリオ管理は新世紀のリスクマネジメント

リスクマネジメントの理論講義も、いよいよ終了。最後に、信用リスク計量化技術を活かした最先端のリスク管理手法について学びましょう。3時限目までに考えておいてほしい課題も出します。

1)まず、ポートフォリオの復習から

資料1をクリックしてください。5段階で進化したリスク管理技術も、いよいよ最終段階です。

資料-01

信用リスク管理システムの発展経緯

現在の銀行のリスクマネジメントは、(5)のポートフォリオ管理段階の実践が定着してきたところです。ポートフォリオとはみなさんもよく聞く言葉だと思いますが、その意味を正しく掴んでいますか?確認しておきましょう。資料14をクリックしてください。

資料-14

ポートフォリオとは?

ある基準に沿って構成された集合体のこと。
たとえば有価証券運用におけるポートフォリオとは、複数の株式や債券など価格の変動する有価証券類の集合体です。
これを効率的に運用するということは、長期間にわたりその集合体の総合価値をできるだけ高めるということになります。
与信業務におけるポートフォリオは、与信先全体や、業種別、地域別など様々な基準で構成できます。
一般に、ポートフォリオを構成する個別資産が完全な正の相関関係にない限り、ポートフォリオのリスクは個別資産のリスクの総和よりも小さくなることが知られています。

与信業務におけるポートフォリオの意味がわかりましたか?ポートフォリオを管理するとは、簡単にいえば、個別の与信先だけではなく、それらの集合体であるポートフォリオのレベルでリスクとリターンをコントロールすることなのです。

2)計量化リスクから最適ポートフォリオを構築する

ポートフォリオ管理を実践するためには、与信先すべてを含むポートフォリオについて業種や地域などセクターごとの分散状況を把握し、分散度合いに応じたリスク量を計測し、最適ポートフォリオを構築します。つまり、特定セクターのリスク量に応じた貸出行動をとることで、ポートフォリオ全体のリスクを分散し、改善するのです。その結果は、たとえば次のように現れます。資料15をクリックしてください。

資料-15

与信ポートフォリオ管理

ポートフォリオ管理によるリスクの分散によりRAROCが向上し、リスクリターン率、つまりリスクに対する利益率が改善されているのがわかります。

また、ある水準の期待収益を最小のリスクで実現できる効率的フロンティアを求めることができれば、それに基づいて金利引上げによるリターン率の向上や、担保・保証などによるリスク削減策の交渉も可能です。効率的な貸出ポートフォリオとは、次のようにイメージすることができます。資料16をクリックしてください。

資料-16

効率的貸出ポートフォリオ

ポートフォリオCはポートフォリオAと収益率は等しいが、リスクは大きい。また、ポートフォリオCはポートフォリオBとリスクの程度は等しいが、収益率が劣っている。つまり銀行は、AかBのポートフォリオで運用するのがもっとも効率的であり、Cで運用することは不合理といえます。このような作業を繰り返していけば、“効率的なポートフォリオ”は曲線AB上に位置することになるでしょう。この曲線ABを“効率的フロンティア”といいます。効率的フロンティアから外れているポートフォリオについては、収益率の向上やリスク削減の施策を重点的に行なっていく必要があります。なお、効率的フロンティア上にあるポートフォリオのどれを選択するか、たとえば相対的にローリスク/ローリターンのAか、ハイリスク/ハイリターンのBか、については、個々の銀行のリスクとリターンに対する選好に依存します。

こうしたポートフォリオ管理を活用し、ハイリスク/ハイリターンのセクターへの貸出と、ローリスク/ローリターンのセクターへの貸出を組み合わせて、ポートフォリオ全体のリスクを調整すれば、ベンチャー企業のような信用リスクの高い企業にも貸出すことが可能になります。また、特定セクターへのリスク集中を回避してポートフォリオ全体のリスク量を極小化することで、低コストの資金を産業界に供給していくことも可能になります。

3)モデルだけで判断しないこと。それが実践的リスクマネージャーの条件なのだ

さて、ここまで、信用リスクの計量化を中心としたリスクマネジメント技術について勉強してきました。しかし、これらはあくまで定量的なデータを中心に導かれる信用リスク管理のモデルにすぎません。実際に与信取引を行ない、顧客と銀行の双方にとって最適の取引条件を設定するためには、1時限目で勉強したように、定量化モデルに顧客の定性情報や貸出案件の内容に関する情報を加えることで最終的に判断していく必要があります。

定量化モデルの作成は私たち投融資企画部の仕事ですが、定性情報に基づく最終判断は各営業店の法人取引担当者にゆだねられます。最終的なリスクマネジメントは最前線で働く一人一人の仕事であることを確認して、2時限目の講義を終了します。

「リスクマネジメント」の理論講義はここまで。

3時限目では、 みなさんが銀行の営業店の法人取引担当者になった場合の実践スキルを学びます。

その準備として、次の課題を考えておいてください。

【課題2】

あなたが担当する次の3つの貸出があるとします。

(1)一般消費者向け量販店の仕入資金
(2)工場の建設資金
(3)法人税の納税などの決算資金

それぞれの貸出に対する返済期限を、次の3つの中から設定してください。

A.3年
B.1年以内
C.3カ月

解答は、3時限目で明らかにします。

まとめ

これで2時限目の講義は終了です。

リスクマネジメントの最新理論と技術について、理解できましたか?ちょっと難しかったかも知れませんが、第一線の銀行員はみんなこの理論と技術の基礎を理解した上で与信業務を行なっています。何度でも復習して、現代の銀行員に不可欠のリスクマネジメントの基礎能力を身につけてください。次の時間は、あなたが営業店の法人取引担当者になったと仮定して、第一線で必要な実践スキルについて講義します。次回は身近な話です。がんばって、受講を続けてください。

それでは課題を、忘れずに考えておいてくださいね。

【課題2】

あなたが担当する次の3つの貸出があるとします。

(1)一般消費者向け量販店の仕入資金
(2)工場の建設資金
(3)法人税の納税などの決算資金

それぞれの貸出に対する返済期限を、次の3つの中から設定してください。

A.3年
B.1年以内
C.3カ月

解答は、3時限目で明らかにします。