STEP3
よくばりな商社と堅実な商社の話

最も基本的な「デリバティブ」である「為替予約」。その本来の役割は、投機ではなくリスクの回避にあります。ここでは、2つの商社のケースをもとに、「デリバティブ」の本質にふれてみましょう。

1.投機目的の商社が見る天国と地獄。

投機目的とヘッジ目的では、「為替予約」はどんな働きをするか。ここでは、わかりやすくイメージするため2つの架空の商社の事例を考えてみます。まず、投機目的で1ドルを110円で為替予約した、商社Aの事例です。資料5をクリックしてください。

資料5

「投機目的」の為替予約

商社Aには、一月後、どんな運命が待っているか? 2つのケースが有り得ます。まず、資料6をクリックしてください。

資料6

「投機目的」+円安

もし1ドル=130円になれば、為替予約を用いて1ドルを110円で買った後、このドルをすぐに130円で売ることにより、20円の儲けを得ることができます。

次に、資料7をクリックしてください。

資料7

「投機目的」+円高

1ドル=90円になった場合には、為替予約のために現在の相場より高い110円でドルを買わなければならず、20円の損をしたことになります。

円が一月後、高くなるか安くなるかは、明確にはわかりません。投機で儲けることを目的に為替予約した商社Aは、逆に損失を受けるリスクも同時に予約しているのです。

2.上手にリスクを回避した堅実商社。

次に、ヘッジ目的のために為替予約を利用した商社Bの事例を考えてみましょう。商社Bはこんな取引を行いました。資料8をクリックしてください。

資料8

「ヘッジ目的」の為替予約

一月後に輸入代金の支払いのためにドルが必要となる輸入貿易商社Bは、110円でドルを買う為替予約をしました。このように、将来の価格変動を避けるために現時点で損益を確定するような取引を「ヘッジ取引」といいます。

次に資料9をクリックしてください。商社Bの思惑は当たったようです。

資料9

「ヘッジ目的」+円安

一月後に、1ドルは130円の円安(ドル高)となりました。もし為替予約していなければ1ドルを130円で買わなければならず、原価超過になっていましたが、為替予約のおかげでこれを回避することができました。

それでは、円高になった場合にはどうでしょう。資料10をクリックしてください。

資料10

「ヘッジ目的」+円高

一月後に、1ドルは90円の円高(ドル安)となりました。現在の相場より高い1ドル=110円でドルを購入しなければなりませんが、この値段なら国内で商品を販売すれば黒字となるので大きな問題とはなりません。

堅実な商社Bは、「為替予約」を利用し、ドルの価格変動にともなうリスクを最小限に抑えることができました。この場合、1ドルが90円になった場合の損失も、あらかじめコストの中に組み込まれています。

3.「為替予約」の本質は、リスクヘッジ。

「為替予約」は、将来の時点で、為替をある価格で買う"約束"です。「為替予約」を結んだ時点では、元手、つまり将来に為替を予約した価格で買うための資金を用意する必要はありません。いいかえれば、お互いが合意すれば資金がゼロでも数億ドルにのぼる巨額な取引ができる仕組みなのです。事例としてあげた投機目的の商社Aのケースでは、円高の場合には損失の総額をゼロから支払わなければなりません。 一方、ヘッジ目的の商社Bの場合には、あらかじめ用意された予算の中で損失が吸収できます。

「為替予約」に限らず、デリバディブ取引で巨額の損失を被る企業は、投機目的の場合がほとんどです。

為替変動リスクをヘッジ(回避)するための仕組み、それが「為替予約」の本来の役割といえます。

では、ここで質問です。

ヘッジ目的の商社Bは、さらに、円高のメリットを活用できる新たな「デリバティブ」に取り組みました。どんな仕組みが考えられるでしょうか?

その答は、次で明らかにします。

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