こんにちは。1時限目で提示した課題は考えておいてくれましたか?
1時限目では、プロジェクトファイナンスについて全体的イメージをふくらませてもらいました。今回はそのイメージを少し専門的に掘り下げていこうと思いますので、がんばって勉強して下さい。
2時限目は、まず国際金融市場では主流となっている「プロジェクトファイナンス」を講義します。
基本概念を理解するのも難しいカリキュラムなので、1時限目の復習からはじめ、より深い理解をしていきましょう。
2時限目は海外の大型プロジェクトに関するニュースに関連して新聞紙上をにぎわせているプロジェクトファイナンスについて掘り下げます。最近では、海外のみならず、日本国内のプロジェクトを対象としたプロジェクトファイナンスも珍しいものではなくなっています。
まず、[資料1]を見て「プロジェクトファイナンス」とはどのようなファイナンス手法だったか復習しましょう。資料1をクリックしてください。
資料-01
「プロジェクトファイナンス」は、資金使途を第2プロジェクトに限定して融資します。返済原資も原則として第2プロジェクトに関わる収益に限定され、担保も第2プロジェクトの資産のみとなるのが普通です。従って、A社が展開する他のプロジェクトや事業、資産は、返済の財源とはなりません。
一言で言ってしまえば、「特定のプロジェクト(事業)に対するファイナンスであって、そのファイナンスの返済源資を原則として当該プロジェクト(事業)から生み出される収益(キャッシュフロー)に限定し、またそのファイナンスの担保ももっぱら当該プロジェクトのキャッシュフロー及び資産に依存して行う金融手法」という感じでしょうか。従って、プロジェクト(事業)の収入となる販売製品またはサービスはまず間違いなく販売できるものである必要があります。例えば石油・金・銅といった国際市況商品、或いは電力といった基礎インフラに関連するものが代表的なものです。
プロジェクトファイナンスは1件ごとにプロジェクトの内容、リスクの所在に合わせて融資の仕組みを作り上げる手作りの商品である為、リスクの分析や条件交渉等で膨大な時間がかかる上、弁護士等の専門家費用も莫大なものになり、多くの苦労がかかります。
ではなぜプロジェクトファイナンスを利用するのでしょうか。
以下に、これらのデメリットを上回るメリットを列記してみます。
まず、事業を実施する企業にとってリスク分散が可能となるというのは大きなメリットです。すなわち、仮にプロジェクトが不採算となり、銀行に対する返済が出来なくなったとしても、銀行はプロジェクトのキャッシュフローや資産からしか返済を受けることができず、原則として事業を実施する企業自体は返済の義務はないのです。従って、企業はプロジェクトに関連する様々なリスクを銀行やプロジェクト当事者等へ分散することが出来ます。
プロジェクトファイナンスを取り組む際には、そのプロジェクトのみを実施する事業主体となる専門会社を設立し、企業はそこに出資する形をとります。この専門会社を一般的にSPC(Special Purpose Company)と呼びますが、プロジェクトの資金調達はこのSPCが行い、そこに出資するスポンサーは調達資金の返済義務は負わないあるいは負ったとしても金額は限定される形式を取っておりこれをノンリコースあるいはリミテッドリコースと言います。またSPCへの出資比率を一定のレベルに抑えればスポンサーは同プロジェクトに関連する債務をバランスシート上の負債として計上せずに済みます。
通常の金融方式では、企業が調達できる資金量はその会社の財務規模や収益力に制約を受けます。これに対しプロジェクトファイナンスではプロジェクトの収益性や返済能力が優れていて仕組みがきちんと構築されていれば、事業を実施する企業の調達能力を超える規模と期間の資金調達も可能となります。
プロジェクトファイナンスは国際合弁事業のような様々な国の企業の集合体が1つのプロジェクトを行う場合に多く利用されています。プロジェクトに投資・参画する企業はそれぞれ異なる会計・税務・法制度の下で事業を行っていますので、同じプロジェクトと言っても参画の目的や思惑は様々です。プロジェクトファイナンスではプロジェクトを開始する前にそれら企業間の責任区分や取り決めを明確にし、以降、プロジェクトに資金を提供する金融機関がこれをモニタリングすることで、当初目的どおりにプロジェクトが遂行される仕組みがとられています。
次にプロジェクトファイナンスを実行する上での流れを簡単にご紹介します。
世界中にプロジェクトをキャッチするためのアンテナを広げます。海外拠点からの現地情報や、世界中の専門家が集まるニューヨーク、ロンドン、東京、シンガポール等での情報が重要です。
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プロジェクトを実施する企業に対して、資金面からプロジェクトをサポートする意思があることを表明します。
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プロジェクトを実施する上での、あらゆるリスクを分析し、更にこれに基づいた返済シミュレーションを作成し、採算性等を検証します。
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フィージビリティ・スタディー及びデューデリジェンスを踏まえ、想定されるリスクを最大限回避、軽減するための仕組み作り(ストラクチャリング)を行います。そしてこれをプロジェクトを実施する企業に提出します。
尚、リスクの評価についてはStep4、その所在の軽減策についてはStep5で詳しく説明します。
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プラン内容、過去の実績などが総合的に評価され、融資の主幹事行が決定されます。銀行にとって、マンデートを得て主幹事行になることは国際的なステータスとなる上、単なる参加行と比べ大きな手数料収入を得ることが出来ます。
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他の銀行に参加を呼びかけ、融資を行う銀行団(シンジケート)を結成します。一方で、膨大な量のファイナンス契約書を作成します。
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契約書に調印し、融資実行へ。
尚、私たちはファイナンスの供与のみならず、財務的助言業務(アドバイザリー)も行います。
プロジェクトファイナンスとは、融資対象のプロジェクトから生み出されるキャッシュフロー/収益を唯一の返済源資として貸出を行う金融手法ですからそのキャッシュフローに影響を与える諸要因/リスクの厳密な分析とそのリスクの軽減をはかるための仕組み作りの成否が案件の優劣を決めると言っても過言ではありません。
銀行はプロジェクトにかかわるリスクをすべて取る事はできませんので、想定されるリスクのうちプロジェクトをとりまく諸関係企業に対し適切なリスク配分を行うための仕組み作りをするのです。
これでは何のことか分からないと思いますので、具体例を用いたいと思います。例えば、以下のようなプロジェクトがあるとします。
・プロジェクト:石炭火力発電所建設
・プロジェクト所在地:東南アジア A国
・スポンサー:米国電力会社 B社/日本大手商社 C社
・電力販売先:A国の国営電力会社 D社
・燃料供給者:A国の大手石炭会社 E社
・建設者:日本の業者 F社
・操業者:B社の子会社 G社
資料2にこれを図式化していますので、イメージを抱いていただくために、見てみて下さい。資料2をクリックしてください。
資料-02
プロジェクト当事者と契約関係は上記のとおりですが、このひとつのプロジェクトの中にも多くのリスクが随所に眠っており、その所在の確認からすすめなければ、プロジェクトファイナンスはすすんでゆきません。
このプロジェクトに絡むいくつものリスクを分析し軽減策を考えることがこの案件を成功に導くためのポイントです。
リスクは多数ありますが、代表的なものについて取り上げ、その軽減策を以下に列記してみたいと思います。
資料3をクリックしてください。
資料-03
仮に発電所が計画された期限内に完成しなかったり、或いは当初予定されていた発電出力が達成できなかった場合、工事の遅延に伴う労賃等の経費が増加(コストオーバーラン)したり、販売契約上のペナルティーを課せられたりして、プロジェクトのキャッシュフローや収支計画に影響を与えることが考えられます。
・発電所が完工するまで、スポンサーであるB社やC社に債務保証してもらう。
・F社との建設契約を固定価格とするような契約を締結する。完工遅延に伴う利益喪失に関する損害保険を締結する。
資料-04
発電が成功しても、銀行に対する借入金の返済が終わっていない段階でD社との販売契約が終了したり或いはD社が倒産したりして販売先が無くなったり、又は、販売する電気の量や価格の変動により、銀行に対する返済ができなくなってしまうリスクも考えられます。
・ D社が購入する電力量の最低限度を規定する契約を締結(ここで規定される電力購入量をもって、銀行からの借入返済が可能となっている必要があります。)
・ 電力料金については、必要経費をすべてカバーするような算定式に基づいて電力料金を設定。
→例えばインフレにより燃料の価格等のプロジェクト遂行経費が上昇した場合、或いは為替レートの変動により銀行に対する返済額がA国の通貨ベースで上昇してしまった場合には、同様に電力料金も上がるような料金設定をします。
・ D社の倒産リスク、民営化リスク等を厳密に調査
資料-05
E社が石炭を供給できなくなってしまったら、やはりプロジェクトを続行する事ができなくなってしまいます。
・ 石炭供給元の埋蔵量を調査
・ E社と長期契約を締結
・ E社からの供給が不能となった場合の代替プランの検証
資料-06
D社との販売契約と銀行との融資契約が異なる通貨で締結されている場合、為替レートの変動により、銀行への返済ができなくなってしまう可能性があります。また、国によっては、その国の経済状況を理由に、外貨交換ができなくなってしまったり、外国との送金取引が停止されたりすることもあります。この場合、プロジェクトは順調に運営されていても、銀行に対する返済が不能となることが考えられます。
・ 販売通貨を借り入れの通貨と一致させる。
・ 輸出信用機関や国際金融機関にはこのようなリスクによる損害を保証するような制度があるのでその制度を利用。
少しはイメージが湧いたでしょうか?
リスクとその軽減策を完全に把握できればプロジェクトファイナンスをマスターしたも同然です!
これまでプロジェクトファイナンスは主に海外での大型プロジェクトの金融手法として利用されてきました。しかし、我が国においても法整備、或いは、リスクや役割に応じた収益配分といったものの考え方が進んだ結果、国内での発電所建設プロジェクト、通信事業、公共事業(PFI)等といった分野での利用が飛躍的に伸びてきています。
このような中、民間のノウハウを利用して公共事業を推進していく手法の1つとしてPFI(Private Finance Initiative)があります。民間が公共事業リスクをとることによって国の財政負担を軽減させる方法で、そこにはSTEP4で見られるように、スポンサーがその事業リスクを、契約ベースでそのリスクを最も適切に処理できる業者に分散し、債務負担を軽減させるプロジェクトファイナンスの論理が活かされています。
PFIとはもともとは英国で始められた新たな公共事業の手法で,国や地方公共団体による社会資本整備などを民営化して民間が橋や道路、病院や刑務所を建設・運営するものです。これまで国や地方公共団体はこれらの整備費を一括して払っていましたが、PFIでは複数年度に渡り、民間事業者に支払う形となる為、財政支出の平準化がはかれるのです。
近年はわが国でもPFIに関する基本法が制定されて以降その基盤が整い、案件数も飛躍的に増加しました。かつての第3セクターは官が運営し、責任の所在が不明確であったためあまり成功しませんでしたがPFIでは、官・民間事業者・金融機関が長期の契約に基づき、各々の義務の明確化が図られています。
案件数の増加に伴い、PFIの適用分野もどんどん拡がっています。例えば学校・病院・図書館・美術館・市民会館・体育館・廃棄物処理場・プール・公園・斎場等々、普段我々が目にするほとんど全ての公共施設での適用例があり、最近では政府の庁舎等の大型の案件や空港ターミナルの運営事業など財政支出を伴わない、民間事業者が事業運営のリスクを負う難易度の高い案件も出てきています。
これで、2時限目の講義は終了です。
3時限目は、LBOファイナンスについて講義します。
がんばって受講を続けてください。