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2時限目 初級講座

主要なデリバティブ手法

1時限目の講義はいかがでした?「デリバティブ」についてイメージできたでしょうか。また、課題1について考えてきてくれましたか?今回は、コーポレートファイナンスの現場で実践される主要なデリバティブ手法について講義します。がんばって受講してください。

1時限目では「デリバティブ」について身近な視点でイメージしてもらうことに重点をおきました。2時限目では、コーポレートファイナンスの現場で駆使される実践的なデリバティブ手法について、具体的な講義を行ないます。

「デリバティブ」は、銀行のコーポレートファイナンス業務の幅を広げる不可欠の手法です。まず、その理由を理解した上で、さまざまなデリバティブ手法についての知識を身につけてください。それでは、2時限目の講義をはじめます。

#Step01 デリバティブが、企業の財務を安定させる

まず、銀行のコーポレートファイナンス業務にとっての「デリバディブ」の意味を理解しましょう。その上で、実践的なデリバティブ手法を勉強するための基礎を学びます。

1)コーポレートファイナンスと「デリバティブ」

2時限目の講義をはじめるにあたり、復習をかねて、1時限目で学んだ手法が企業に与えるメリットを確認しておきましょう。

為替予約

将来の決まった期日に、ある通貨を決まった値段で買う、あるいは売る予約のことです。企業にとっては、将来の為替の価格変動を避け、現時点で損益を確定できるメリットがあります。

オプション

「為替予約」では、もし相場が自分にとって不利な方向に動いても、予約内容を実行する必要があります。それに対して「オプション」では、最初に少額の手数料を払えば、相場が不利に動いた場合には予約を放棄することができます。つまり、“いいとこどり”の権利が「オプション」。企業にとって、「為替を買う権利=コールオプション」は、相場がどれだけ不利に動いても損失を手数料に限定できる、いわば保険の役割を果たします。

この時間の講義では、「為替予約」「オプション」に続いて、「キャップ」「スワップ」といった実践的手法について学びます。しかし、本質はみんな同じ。さまざまな市場リスクをヘッジ(回避)し、企業の財務を安定させることがデリバティブの本質的な役割です。

当行では、これから勉強するさまざまなデリバティブ手法を駆使して、企業の財務を安定化するお手伝いに務めています。このゼミで展開する「デリバティブ取引」は、企業の財務リスクをヘッジする銀行の企業向けサービス、すなわちコーポレートファイナンスの一環であることを、まず頭にたたき込んでください。

2)2時限目の基本、固定金利と変動金利を学ぼう

この時間では、私たちがコーポレートファイナンスの一環として実際に使っているデリバティブ商品を勉強します。まず、講義の予備知識として、金利について押さえておきましょう。資料1をクリックしてください。

資料-01

固定金利・変動金利って?

金利には固定金利と変動金利という区別の方法があります。固定金利は取引を始める際に今後の全期間の金利を一定水準に定める長期金利のこと。一方、変動金利は、指標となる金利の変化にともなって適用する金利も一定期間ごと(たとえば半年ごと)に変化する短期金利のことです。一般的に短期金利は長期金利より低いケースが多く、銀行が資金を調達する際の基本となるのが、この変動金利のベースとなる短期金利です。

これがどう「デリバティブ」に関係するのかって?固定金利と変動金利は、2時限目で勉強するデリバティブ手法の前提となるのです。しっかり理解してください。

では、いよいよ具体的なデリバティブ手法について勉強しましょう。準備はいいですか?

#Step02 実践的デリバティブ、「キャップ」と「スワップ」

いよいよ、実践的なデリバティブの講義です。企業財務のリスクヘッジのため、極めて有力な手法として活用される「金利キャップ」と「金利スワップ」。まず「金利キャップ」の概念と効果を勉強した上で、「金利スワップ」の基本概念に講義をすすめます。

1)「金利キャップ」って何だろう?

企業が変動金利で銀行から資金を借り入れると、金利が急激に上昇した場合に予定外の金利負担を強いられます。そこで、はじめに少額の手数料を支払う代わりに、将来金利が上昇した時に支払い金利が一定の上限に抑えられるようにする「デリバティブ」が、「金利キャップ」です。

2)金利上昇に備える保険料、それが「キャップ」

「キャップ」は、実際にはどのように活用されるのでしょうか?資料2をクリックしてください。

資料-02

キャップの具体例

「キャップ」を取り組んでいなければ、金利が大きく上昇した時には資金の調達コストも大きく増えてしまいます。しかし、「キャップ」を取り組めば最大でも(キャップ料+上限金利=)年3%に抑えることができ、財務の安定につながります。

「キャップ」の役割について正しく理解するために、金利が5%に上昇した場合と、1%に下落した場合を考えてみましょう。上限金利は年2%、キャップ料は年率で1%の想定です。資料3をクリックしてください。

資料-03

キャップの効果

金利が5%に上昇しても、キャップ料1%+上限金利2%の、実質3%の金利負担で済みます。

金利が1%になった場合には、1%のキャップ料+TIBORの金利1%の実質2%の金利を負担します。つまり、市場金利がいくら上昇しても、支払い金利は一定水準を越えることがない。それが「キャップ」です。

「キャップ」は、金利が上昇した時には支払い金額を抑える効果を持ちますが、金利が下がった時にはキャップ料の払い損になります。したがって、キャップ料は金利上昇に対する“保険料”と考えられます。

では、ここで質問です。「キャップ」を買った人の損益グラフは、金利の推移を横軸にとった場合にどのように描けるでしょうか。答は、資料4をクリックしてください。

資料-04

キャップの損益の推移

金利の推移を横軸にとった「キャップ」の損益グラフは、1時限目で勉強したコールオプション損益グラフと同じ形になりました。これは、原資産を「購入」するオプションを「購入」する際に共通する損益構造です。すなわち、「キャップ」とは「オプション」の一種なのです。

3)それでは、「スワップ」って何だろう?

次に、「金利スワップ」というデリバディブ商品について勉強しましょう。「スワップ=SWAP」を辞書でひいてみると、「交換する」「交易する」という意味があることがわかります。

すなわち、「金利スワップ」とは、ある決められた元本に対してかかる金利を交換する取引のことです。でも、これでは何のことだかわかりませんね。いったい、金利を交換するとはどういうことなのでしょう?

次に、いよいよ「デリバティブ」屈指のマジックを明らかにします。

#Step03「スワップ」は、企業財務を安定化する特効薬

「スワップ」は、「デリバティブ」のもっとも有効な手法の一つでありながら、その概念はなかなか理解しにくいものです。“金利の交換”という「スワップ」の原理とその効果を、なるべく単純化した例を通して勉強しましょう。

1)銀行の固定金利と、企業の変動金利を交換する。それが「スワップ」

「スワップ」とは、ひとことで言えば、長期金融市場の固定金利と、短期金融市場の変動金利を交換する取引です。ここでは、10億円の元本を想定し、それに対する1%の固定金利と、TIBORによる変動金利を5年間交換する「金利スワップ」を考えてみましょう。資料5をクリックしてください。

資料-05

金利スワップの具体例

銀行から企業へは毎年10億円×1%、つまり1000万円が支払われます。一方企業から銀行へは、毎年10億円×(その時点でのTIBOR)、たとえば1年ものTIBORが1.2%ならば1200万円が支払われます。この場合年1回ごとのこの交換を5年間、すなわち計5回交換することになります。この取引は、10億円の想定元本に対する金利を交換するものであり、企業は実際に10億円を借りる必要はありません。

この企業は「スワップ」により、10億円をTIBOR金利(変動金利)で1年ごとに調達し、5年間1%の固定金利で運用したのと同じ経済効果を、元本を借りることもなしに実現したことになります。

2)“投機目的”の金利スワップ

それでは、1時限目の「為替予約」の時と同じように、投機を目的として「金利スワップ」を取り組んだ場合を考えてみます。これから短期の変動金利が下がっていくと予想した場合、変動金利を支払い、1%の固定金利を受け取る、元本10億円の「金利スワップ」を取り組んだとしたら、その損益はどうなるでしょう。資料6をクリックしてください。

資料-06

「投機目的」+金利低下

変動金利が、予測通りに1年後に0.8%、2年後に0.5%へと低下しました。毎年の受取は固定金利の1%で1000万円と変わりませんが、支払いのほうは1年後には800万円、2年後には500万円となり、2年間で合計700万円の収益が得られます。

次に、予測に反して金利が上昇した場合を考えてみます。資料7をクリックしてください。

資料-07

「投機目的」+金利上昇

変動金利は1年後に1.2%、2年後に1.5%へと上昇しました。受取のほうは毎年固定金利の1%で1000万円と変わりませんが、支払いは1年後には1200万円、2年後には1500万円と、2年間で合計700万円の損失が出てしまいます。

「スワップ」は実際に元本を必要としない金利だけの取引であるため、取引の総額はどこまでも膨らみます。お互いが合意すれば一つの銀行と企業だけで100億円の「スワップ」を行うことも可能です。

一方、為替の動きと同様、短期の変動金利を正確に予測することはできません。投機目的の「スワップ」は、天文学的な額の損失と隣り合わせにあるのです。これは、企業の財務リスクをヘッジする正しいデリバティブのあり方とはとうてい言えません。

3)企業財務のブレをなくす、“ヘッジ目的”の金利スワップ

投機目的とは逆に、「スワップ」により会社の収益を安定させることはできないでしょうか。一般に世の中の景気がいい時は変動金利は上昇し、景気が悪い時には変動金利は低下します。この傾向を上手に読み込んだ「金利スワップ」を取り組めば、景気の変動にともなう収益のブレとは関係なく収入を安定させることができます。資料8をクリックしてください。

資料-08

金利スワップの効果

一般に、短期金利が高い時には景気がよく、企業は大きな収益をあげているケースが多いといわれます。その逆に、変動金利が低い時とは、企業はあまり収益をあげていないことが多いものです。「金利スワップ」を取り組むことで、景気がよく収益の大きい時には企業は変動金利の支払いを増加し、景気の悪い時には支払いを減らすことができます。一方、銀行から支払われる固定金利は、常に一定額です。「スワップ」により、企業は景気変動による収益のブレをミニマイズして収益を安定させることができ、財務体質の安定化につながります。

収益が金利推移と大きく関わる企業(金融機関+金利敏感業種)では、弾力的に「スワップ」を使って資産と負債の総合管理を行っています。また、「スワップ」では実際の資金の貸し借りは発生しないため、その元本は企業の資産・負債を記したバランスシート(貸借対照表)に記載されません。これはデリバティブ取引共通の特長です(*)。実際の運用・調達資金を必要とせず、バランスシートを変えず、金利収益を安定化できる。それが企業にとって「スワップ」の最大のメリットといえます。

(*)現在企業会計制度は大きな変革期にあります。

デリバティブについても、取引の時価(期末時点で取引を清算すればいくらの損益が発生するか)を貸借対照表や損査計算書に反映させる制度改革が行われました。

多様なデリバティブ手法の勉強は、ここまで。

次に、1時限目の課題1の解答を考えます。

新しい課題も用意していますよ。

#Step04デリバティブ理論のプロローグ

1時限目に提出した課題を覚えていますか?実は、あの課題は、難解といわれるデリバティブ理論の考え方を理解するための入り口です。2時限目の最後は、課題1の答を考えながら、デリバティブ理論の世界に少しだけふれてみましょう。

1)もっとも利益を出しやすいのは、どの10円?

1時限目に出した課題は、こんな問題でした。

いま、1ドルの為替相場は110円だと仮定します。

1カ月後に1ドルを110円で買うオプション料、10円。

1カ月後に1ドルを100円で買うオプション料、10円。

1カ月後に1ドルを120円で買うオプション料、10円。

解答は考えてきてくれましたか?答を出すにあたり、もう一度「オプション」の基本概念を復習しておきましょう。資料9をクリックしてください。

資料-09

「オプション」とは

最初に少額の手数料を払う代わりに、将来、現資産をきまった値段で買う、または売ることができる権利であり、その権利を行使するか放棄するかは「オプション」の購入者が自由に決めることができる。買う権利をコール、売る権利をプットと呼ぶ。

課題は1ドルを買う権利ですから、「コール・オプション」になります。そして、「コール・オプション」の購入者は、利益は無限大になり得ても、損失はオプション料に限定されるという損益構造をもっています。オプションの売り手は、その逆(利益はオプション料に限定。損失は無限大)です。

それでは、「コール・オプション」の損益構造に、問題の3つの「オプション」をあてはめてみましょう。資料10をクリックしてください。

資料-10

3つの「オプション」の損益

1のオプションでは、1カ月後に1ドルが120円を越えれば利益がでます。

2のオプションでは、1カ月後に1ドルが110円を越えれば利益が出ます。

3のオプションでは、1カ月後に1ドルが130円を越えなければ利益が出ません。

ドルの値段が下落し、コール・オプションを放棄した場合、いずれも損失はオプション料の10円です。

課題の答は、もうわかりましたね。3つのオプション料10円の中で、もっともお得なのは、1ドル110円を損益分岐点とする(2)です。1カ月後に1ドルを100円で買うオプションなら、ドルが値上がりした場合もっとも利益が得やすく、逆にどんなにドルが値下がりしても損害は10円に抑えられるのです。実際の市場では、このように異なる行使価格(100円 110円 120円)で同じオプション料が建値されることはなく、諸条件に応じた合理的なオプション料に収れんします。難解といわれるデリバティブの価格理論の入り口です。

2)「オプション料」を決める5つの原則

実際のオプション料の設定では、課題のような場合、3つとも同じ料金ということはありません。有利な条件ほど高いオプション料が決められます。デリバティブの価格理論のルールでは、

1.いま原資産(ここでは1ドル)の価格はいくらか(原資産価格)

2.将来、いくらで売買できる権利か(行使価格)

3.売買までの期間はどれくらいか(期間)

4.いまの金利はいくらか(金利)

5.原資産の価格は、将来どの程度の変動が予測されるのか(ボラティリティ)

がオプション料を決定する条件となります。3時限目では、こうしたデリバティブの理論的側面について、なるべくわかりやすく講義をしたいと思います。

それでは、3時限目まで考えておいてほしい課題です。

課題2.

金利を2%とした場合、現在の1万円と1年後の1万円の、“今の価値”はいくらでしょう?

この問題に、実はデリバティブ理論の核となる概念「現在価値」について解き明かす鍵が含まれています。

詳しくは、3時限目でお話ししましょう。

まとめ

これで、2時限目の講義は終了です。

「デリバティブ」の具体的な手法や、コーポレートファイナンスと「デリバティブ」の関わりについて、理解できましたか?特に「スワップ」などは基本概念が難解です。何度でも復習して、その基礎をしっかり身につけてください。次の時間は、「デリバティブ」の理論的側面を中心に、「デリバティブ」に必要な能力にまで講義をすすめます。がんばって、受講を続けてください。

それでは、課題を忘れずに考えておいてくださいね。

課題2.

金利を2%とした場合、現在の1万円と1年後の1万円の、“今の価値”はいくらでしょう?

答は、3時限目で明らかにします。