またお会いできましたね。1時限目の講義はいかがでした?今回から、プライベートバンカーに的を絞った講義をはじめます。がんばって、あなたもプライベートバンカーをめざしてください。
プライベートバンキングゼミも、今回で2時限目。前の時間では、銀行の新しい業務としての「プライベートバンキング」の基本概念や市場背景を勉強しました。2時限目からは、「プライベートバンキング」の主役となるプライベートバンカーをめざすための基礎的な勉強をスタートします。
プライベートバンカーは、今後の日本の銀行業の主軸の一つとなる、重要な新しい職種です。この仕事の内容や求められる資質について、今回は勉強しましょう。
銀行の新しい職種として注目されるプライベートバンカー。それは、いったいどんな仕事なのでしょうか?その概念をつかむことから2時限目をスタートしましょう。とりあえず、スイスの銀行家をイメージしてください。
スイスの伝統的なプライベートバンクには、たった二人しか乗れない小さなエレベーターが設置されています。そのエレベーターに乗れるのは、プライベートバンカーと、彼が担当する顧客だけ。二人は、誰にも見られることなくエレベーターで移動し、二人だけのために設けられた打ち合わせ用の個室へと向かうのです。
この話は、プライベートバンカーの仕事を象徴しています。プライベートバンカーは、顧客にとっては自分のためだけのバンカーであり、資産の運用・管理をはじめ、資産や事業の承継などすべてを託しています。プライベートバンカーは、あらゆる知識やスキルを駆使して顧客の信任に応え、職務上知り得た秘密を誰にも漏らすことはありません。時に、こうした信任に基づく関係は、生涯続きます。「プライベートバンキング」が発達している欧米では、プライベートバンカーは、最も完成されたビジネスマンとして社会的に高い評価を勝ち得ています。
これから申し上げる例は、プライベートバンクの例ではありませんが、アメリカにゴールドマン・サックスというインベストメント・バンク(投資銀行)があります。
ここに、フォードを顧客とするリレーションシップ・マネジャーがいるのですが、彼はなんと40年間もフォードを担当し続けています。社内での待遇は経営会議役員と同等ですが、経営会議に出席する立場ではありません。しかし、行内や顧客からの信頼という点で見れば、彼はゴールドマン・サックスのNO.1バンカーかも知れません。欧米のプライベートバンカーでもこの例と同様に、頭取より高い給与や評価を得ている人材がいくらでもいます。
日本の銀行にも、こうしたプライベートバンカーを育てる動きが広がっています。顧客との長期にわたるリレーションシップを維持し、相互の信頼関係をベースに、個人資産を一括して預かってオーダーメイドの運用・管理と幅広いコンサルティングを行う…。こうした人材は、現在の人事制度や給与体系ではなかなか育ちません。また、教育・養成にもこれまでにない奥行きと広さが求められます。そのため、「プライベートバンキング」業務を推進する銀行には、プライベートバンカーを一つの職種として確立する方向が生まれてきました。銀行という分野での多様な進路の一つとしてプライベートバンカーがある…。そう考えると、銀行に入ることが、なんだか楽しくなってきませんか。
それでは、プライベートバンカーは、どんな仕事をするのでしょう?
欧米の事例から、日本型のプライベートバンカー像をイメージしてみましょう。
ヨーロッパとアメリカでは、プライベートバンカーの職務は異なります。その事例を勉強しながら、今後誕生する日本のプライベートバンカー像に迫ってみましょう。
長い歴史をもつヨーロッパのプライベートバンカーは、まさに顧客との一生のつきあいをするケースが多くみられます。その目的は、顧客の資産の保全が中心です。いわば、生涯にわたって、顧客の財産の主治医の役目を務めるわけです。資料1をクリックしてください。
資料-01
ヨーロッパのプライベートバンカーは、スイス型とイギリス型に分かれます。スイス型は資産の保全・運用をカバーする“富裕層の総合的な財務コンサルタント”の性格が強く、資産運用の考え方も保守的で、元本を減らさない“保全”に力点をおきます。また、守秘義務など倫理観がしっかりしており、顧客の個人的な相談にものる、いわば“執事”に近い職務です。イギリス型は、スイス型より資産運用にウエイトをおき、その運用方法は自社設定の投資信託を中心とした積極的でグローバルなものです。
また、顧客が資産家であるため、融資、つまりファイナンスは行いません。顧客と全人格的につきあうヨーロッパのプライベートバンカーは、子供の教育相談にのり進学する学校を探したり、ボートやクルーザーの購入を世話することもあるそうです。
アメリカでは、発達した資本主義により個人資産が急速に蓄積され、「プライベートバンキング」のニーズが生まれました。プライベートバンカーの顧客の大半は、成功した事業家・企業家です。そのため、ある程度のリスクを覚悟しながら、ハイリターンの運用成果を求めて資産を託す場合が多いのです。したがって、アメリカのプライベートバンカーには、資産の運用を重視するインベストメントバンキングの能力が求められます。資料2をクリックしてください。
資料-02
アメリカのプライベートバンカーは、ハイパフォーマンスの資産運用を重視するのが主流です。その理由は、彼らが富裕な事業家・企業家の“ファミリー・オフィス”を最大の顧客としているため。アメリカの富裕層の“ファミリー・オフィス”は、税金や相続について担当する専門の税理士(タックス・コンサルタント)や顧問弁護士を抱えており、プライベートバンカーの役割は資産運用のパフォーマンスをあげることに絞られるのです。いわば顧客ファミリー専属の“投資顧問”に近い存在といえます。
事実、アメリカでは、ファンドマネジャーやインベストメントバンキング経験者がプライベートバンカーとなるケースが多いようです。また、顧客の事業展開や投資のためのファイナンスも業務の一つとなっています。
それでは、日本に誕生するプライベートバンカーはどのような人材でしょうか?投資や資産運用という概念がまだ薄い日本の個人マーケットでは、ヨーロッパ型が基本です。顧客と10年、20年にわたってつきあいながら、強い信頼関係のもとに、資産の確実な運用・保全・管理、事業承継、保険のコンサルティングなどあらゆるニーズに応えるトータル・サービスを提供するのが、日本型のプライベートバンカーといえるでしょう。ただ、いま台頭しているニューリッチには、ニュービジネスの起業家として成功し、アメリカと同様にハイパフォーマンスの資産運用を望む顧客も数多く存在します。彼らのニーズに応える資産運用スキルも求められるでしょう。
ヨーロッパ型をベースに、アメリカ型の資産運用スキルをとりこんでいく…。それが日本型のプライベートバンカーの理想像です。
金融のスーパーマンみたいなプライベートバンカー。
この職種につくためには、どんな条件が必要でしょう。
次は、プライベートバンカーになるための資質・能力の勉強です。
プライベートバンカーになるためには、どのような資質やセンスが必要でしょうか。ここで、顧客のあらゆるニーズに対応するための幅広い能力について勉強します。
まず質問です。
“Personal Chemistry”
この英文の意味を考えてください。答は、資料3をクリックしてください。
資料-03
“顧客との会話から醸し出される反応”といった意味。会話を通して顧客の悩みやニーズをひきだし、大きな信頼を勝ちとる能力がプライベートバンカーにとって最も重要な能力とされる。
どうです、“人間の化学反応”なんて訳しませんでした?“Personal Chemistry”は、ヨーロッパに限らず、すべてのプライベートバンカーにとって重要な要素です。顧客が信頼してくれなければ、トータルな資産運用・管理を任せてくれる訳はないのですから。また、事業承継をはじめ、顧客のプライベートな事情が関わってくるケースにも対応しなければなりません。 “この人になら、すべてを話しても大丈夫”という、全人格的な信頼が求められます。つまり、プライベートバンカーに求められる最大の能力は、顧客の心情を理解し、相手の立場にたてる“人間性”です。たとえば、みなさんなら、子供の教育に悩む親の気持ちをくみとれますか?
こうした大きな信頼関係をベースとする以上、一人のプライベートバンカーが担当できる顧客の数は限られます。顧客の大事な金融資産を管理しつつきめ細かいアドバイスをするとなれば担当顧客数に限度があるのは当然でしょう。
プライベートバンカーに求められるのは、もちろん人格的な能力だけではありません。顧客のそれぞれのニーズをくみ取るためには、幅広い分野の知識やセンス、そして幅広い人脈が求められます。資料4をクリックしてください。
資料-04
これらのすべての分野で、顧客に対し的確なアドバイスやコンサルティングができる。それが一流のプライベートバンカーです。とはいえ、これらのすべての資格を持つ必要はまったくありません。顧客のニーズをくみとることができれば、実務は専門家にまかせればよいのですから。これらの能力・センスをベースに、リレーションシップマネージャーとして顧客の信頼関係を築ける能力がプライベートバンカーに必要不可欠な資質です。
次に、国際的なプライベートバンカーの活動についておさえましょう。
資産運用のグローバル化や海外のプライベートバンクの参入により、国際市場をみつめた「プライベートバンキング」が求められます。ここでは、そうした市場背景と、プライベートバンカーの国際活動について勉強します。
日本における富裕層の市場規模は244兆円と巨大ですので、外資からみても魅力的な市場となっています。しかしながら、日本の富裕層の特異性から、外資系のプライベートバンクは参入・撤退を繰り返しています。
一方、顧客にも、世界を視野に入れた資産運用のニーズが生まれています。いま、日本の金融市場は株安、金利安のため、効果的な資産運用が難しい状況です。また、高齢化社会の到来や景気の先行きの不透明感などの背景から、自らの資産の一部を海外で運用したいという国際分散投資の考え方が広がっているのです。
こうした動きに対応するため、プライベートバンカーには国際金融市場をみつめた活動が不可欠となります。欧米への直接投資や外貨建ての預金・投資信託等でのハイパフォーマンスな資産運用を求められます。また、日本市場で投資したいという海外の資産家もプライベートバンカーの顧客となります。
これで、2時限目の講義は終了です。
3時限目では、プライベートバンカー養成講座「実践篇」と題して、プライベートバンカーと、競合するさまざまな仕事との違いや、当行で実際に進めているプライベートバンカーのための体制づくりについて講義します。がんばって受講を続けてください。