• SMBC
  • SMBCグループ
MENU
個人向けビジネス
プライベートバンキング
リテール業務ゼミ
1時限目 基礎講座

プライベートバンキング

改めて簡単に自己紹介させていただきます。私は1990年に入行し、営業店3ヶ店で預金、外為、融資等の業務を経験、その後2000年にプライベートバンキング部に異動と同時に当行100%出資の米国現法であるマニュファクチャラーズ銀行に米国のプライベートバンキング習得のためトレーニーとして渡米。

2001年に帰国後プライベートバンカーとして富裕層のお客様を担当し、個人資産の運用や主宰企業の企業価値向上、資本政策等に関する提案を中心に活動しています。

多額の資産を保有しているプライベートバンキングのお客さまは、銀行のサービスに対して求めるレベルも非常に高く、ビジネスパートナーとして信頼を得ることは簡単ではありませんが、お客さまのご要望に応えるべく日々邁進しています。
このゼミでは、こうした私の経験を踏まえ、当行が目指している「プライベートバンキング」の新しい概念、そして新しい職種となるプライベートバンカーについて講義したいと思います。

#Step01 「プライベートバンキング」って、何のこと?

まず、日本ではまだなじみの薄い「プライベートバンキング」の正しい概念について理解しましょう。意外と身近なところに、そのヒントがありますよ。

1)ゴルゴ13の金融世界 

劇画の「ゴルゴ13」を読んだことのある人は多いでしょう。あの話の中で、依頼を請け負ったデューク東郷が、“報酬はスイス銀行の指定口座へ”と語るシーンがよく出てきますね。デューク東郷は、間違いなく、スイスのプライベートバンクと取引しているはずです。プライベートバンクとは、ひとくちにいえば、ヨーロッパで発生した、資産家や事業家の財産を保全・管理し、運用する専門銀行のこと。プライベートバンクが展開する業務は、いま形を変え、日本の個人向け銀行業務を大きく変えようとしています。

2)「プライベートバンキング」の発祥

「プライベートバンキング」の概念が生まれたのは、スイスとイギリスです。それぞれに事情は多少異なります。ここで、資料1をクリックしてください。

資料-01

「プライベートバンキング」の発祥

十字軍から生まれたスイスのプライベートバンク

「プライベートバンキング」の発祥は、スイスでは11世紀の十字軍の遠征にさかのぼります。ヨーロッパでは階級社会が長く続いたため、貴族などの資産保全を業務とする財産管理人が活動していました。いわば個人営業のプライベートバンクです。十字軍以降、ヨーロッパでは戦乱が続き、傭兵として活躍したスイス人に富が集まり、18世紀のスイスで現在の「プライベートバンキング」の原形が誕生しました。その後、永世中立国として確立したスイスには、ヨーロッパ各国の戦乱を逃れた資金が集まるようになりました。

ロイヤルファミリーの資産を吸収したイギリスのプライベートバンク

一方、イギリスでは、17世紀半ばから「クーツ」等の伝統的プライベートバンクが活動していました。当時、農業資本主義が進んでいたイギリスでは、ジェントリー(郷紳)などの大地主や貴族の財産の保管や運用を手がけた金融業がプライベートバンクへと発達したのです。その後、イギリス型のプライベートバンクは、フランス革命からの逃避資産やロイヤルファミリーの資産を吸収しながら、幅広い資産家の財務面の主治医としての役割を果たすようになりました。

3)「プライベートバンキング」の基本業務

ここで、現在の銀行の「プライベートバンキング」業務について概観しておきましょう。資料2をクリックしてください。

資料-02

「プライベートバンキング」業務の概要

「プライベートバンキング」業務は、

1.一任勘定を使った資産運用業務
2.投資、保険のアドバイス
3.投資信託の組成・販売
4.信託業務(遺言信託・執行)
5.通常の銀行業務(ローン、クレジットカード等)
6.証券売買
7.為替・資金の売買
8.カストディ業務 (*)
9.税務面を切り口としたコンサルティング…など多岐にわたる。
*カストディ業務:有価証券の保管に関する業務

これらの業務は、それぞれの国の金融制度によって多少異なります。しかし、各国の「プライベートバンキング」業務に共通した絶対の条件があります。それは、プライベートバンカーと呼ばれる顧客とのリレーションシップマネジャーの存在です。プライベートバンカーは、個人顧客のあらゆる金融ニーズに応じた総合的な資産運用・管理のサービスを提供しています。プライベートバンカーの仕事については、2時限目以降で詳しく講義します。「プライベートバンキング」の本質を楽しみにしていてください。

ここで質問です。

本来、貴族や資産家向けの業務だった「プライベートバンキング」が、なぜいま日本で注目されているのでしょう?

答は、次に明らかにします。

#Step02ニューリッチが動き出した

SMBCを含め各金融機関は、プライベートバンキング業務を重点的な戦略業務に位置づけています。

いま、なぜ「プライベートバンキング」が注目されているのか?そこには、戦後70年以上にわたって蓄積された個人資産があります。ここでは、「プライベートバンキング」業務の前提となる日本の個人市場について勉強しましょう。

1)なぜ、日本では「プライベートバンキング」が遅れたのか?

欧米では普通の金融業態となっている「プライベートバンキング」。しかし、これまで日本では、この業務は発達しませんでした。その理由は、資料3をクリックしてください。

資料-03

日本で「プライベートバンキング」業務が発達しなかった理由

1.日本の金融行政の専門・分業主義

2.銀行預金や郵便貯金など有力な資金の受け皿が存在し、行政もそれを後押しした。

3.高い累進課税や相続税があり、個人が所有する金融資産の規模に大きな差が生じなかった。

4.歴史的に、国家に対する信頼が厚く、自ら資産を海外に逃避させてまで保全する発想が育たなかった。

ご覧のように、さまざまな理由が、日本での「プライベートバンキング」業務の展開を阻んできました。最大の理由は、多額の金融資産を持つ人がこれまでの日本では少なく、「プライベートバンキング」の対象が限られていたことでしょう。しかし、ここにきて、新しい動きが生まれています。それが、ニューリッチといわれる新たな富裕層です。

2)戦後70年、新たな富裕層の誕生

これまで、日本の富裕層の多くは、主に戦後に創業した企業オーナーであり、その資産の8割以上が自社株と言われています。戦後70年が経ち、それらの事業・資産が次の世代に継承され、実物資産から流動性の高い金融資産にシフトしつつあります。一方で、創業後、短期間で新規上場する企業も増加し、大きな金融資産を手にする企業オーナーも誕生しています。

現在の日本は、個人の保有する金融資産は1800兆円といわれており、かつてないほどの富が蓄積されつつある状況です。

3)起業家の増加に伴う富裕層の拡大

株式の新規公開で大きな創業者利益を得たIT長者が、テレビ、新聞等で取り上げられることがあります。今、ITやニューテクノロジー、バイオテクノロジーなど、新たな技術の進化により、新たなビジネスチャンスが生まれ、起業家が増加しつつあります。その中には、新規上場により、大きな金融資産を手にする企業オーナーも登場しています。こうした新たな世代の企業オーナーも、「プライベートバンキング」の対象となる富裕層です。
では、新たな金融資産リッチ、ニューリッチとはどんな層なのかをまとめてみましょう。資料4をクリックしてください。

資料-04

新たな金融資産リッチのプロフィール

1)新規上場を果たした企業の創業者

通信技術の発達などのニューテクノロジーや遺伝子工学などのバイオテクノロジーが新たなビジネスチャンスを生み、創業後短期間で新規上場する新しい企業が増加しています。このような企業のオーナーが、大きな金融資産を手にするケースが増えています。

2)世代交替による事業・資産の継承者

現在、戦後70年にわたり日本の経済成長を支えてきた経営者層が、世代交替の時期にさしかかっています。その継承者達は、相続対策などのため先代の経営者が保有していた土地や株式を流動性の高い金融資産にシフトしはじめています。

3)コーポレート・エグゼクティブ

97年6月に解禁されたストック・オプションは、経営者と成長の利潤をわけあうコーポレート・エグゼクティブに大きな金融資産をもたらす可能性があります。

ニューリッチの登場だけではありません。日本の金融市場には、「プライベートバンキング」を推進したい切実な理由があるのです。その理由は、次にお話ししましょう。

#Step03 「プライベートバンキング」の変遷

増大する金融資産リッチは、銀行に「プライベートバンキング」サービスを求めはじめました。
一方、銀行にも「プライベートバンキング」業務を推進したい理由があります。

1)富裕層顧客のニーズ変化

これまで、日本の銀行の個人顧客向けサービスは、預金が主体でした。しかし、かつてない低金利が続く中、預金はもはや資産運用としての魅力をなくしつつあります。一方、長らく続いた株安により、日本においては伝統的な株式投資は効果的な資産の運用手法ではなくなってきました。さらに、新たに台頭した金融資産リッチは、洗練された投資家としてハイパフォーマンスな資産運用を求めはじめています。これまでの銀行の個人向け業務では、こうした新たな資産運用ニーズに応えられません。そこで、富裕な個人顧客に対しオーダーメイドの資産運用・管理サービスを提供する「プライベートバンキング」業務の確立が迫られています。

さらに、新たに台頭した金融資産リッチは、洗練された投資家としてグローバルな視点とポートフォリオの分散といった視点等も踏まえた資産運用・資産保全を求め始めています。

2)銀行の新たな手数料ビジネスの可能性

一方、銀行も「プライベートバンキング」業務に大きな可能性を見いだしています。これまでの銀行業務は、集積された預金を企業などに貸し出して金利の差額を得る、金利収益がその基本でした。しかし、金利の低下に加え、規制による自己資本比率の確保のため、実際に資産を動かさずに収益をあげるさまざまな手段を講ずる必要が出てきたのです。この事をオフバランスの収益と言います。海外の有力な金融機関の主な収益源がこれになります。「プライベートバンキング」による個人顧客の資産運用・管理は、銀行自体の資産を使わない、純粋な手数料ビジネスです。「プライベートバンキング」は、金利から手数料へ日本の銀行の収益構造を転換する、大きな可能性を秘めているのです。

3)5.4万世帯、73兆円の巨大市場を活性化する

顧客サイドと金融機関サイドの両者が求める「プライベートバンキング」。日本の金融資産の厚みを考えれば、この業務は銀行の新しい柱として大きく発展する可能性を持ちます。その市場規模をざっと計算してみましょう。資料5をクリックしてください。

資料-05

「プライベートバンキング」の市場規模

野村総合研究所2014年発表の統計で、金融資産5億円以上の富裕者マーケットの規模は、2013年時点で5.4万世帯、約73兆円です。

「プライベートバンキング」は、この巨大な市場を対象とする、銀行の新しい戦略業務です。また、数十兆円におよぶ資金を運用し、市場に投入することは、現在停滞している日本経済に新たな活力を呼ぶでしょう。「プライベートバンキング」は、日本の巨大な金融市場の可能性を開く、まさに時代からの要請なのです。

市場環境の講義は、ここまで。
次は「プライベートバンキング」の具体的な業務の勉強です。

#Step04「プライベートバンキング」業務って、何だ?

個人を対象に資産運用・管理のあらゆるニーズに対応する「プライベートバンキング」。その業務は、具体的にどのようなものでしょう。信託を中心とした、日本型「プライベートバンキング」の概要について講義します。

1)「プライベートバンキング」とは

これまで、邦銀の個人向け業務は預金の額や資産規模に関わらずすべてのお客さまに画一的なサービスを提供していました。「プライベートバンキング」業務ではこの殻を破り、顧客対象を超富裕層に限定し、資産運用・管理・承継二ーズに対し、さまざまな機能を組み合わせてソリューションを提供することで、個々のお客さまの二ーズに合わせたオーダーメイドの対応をしています。

2)幅広いソリューション

日本型「プライベートバンキング」の顧客ヘのアプローチをもう少し具体的に見てみましょう。企業オーナーであれば当然自身の企業に対しての情報・ソリューション提供を求めています。また、自身の資産運用や管理、どうのように後世に資産を残していくかといったことに対するサポートも求めています。

このように、日本型「プライベートバンキング」は法人、個人の領域に跨った提案・サポートが必要となります。では、当行がどのようにプライベートバンキングを展開しているかは、後述いたしますのでもう少しお付き合いください。

次にそれを勉強し、1時限目の講義を終えましょう。

#Step05 「プライベートバンキング」のいくつものハードル

銀行の個人業務を大きく変える「プライベートバンキング」。その確立にあたっては、越えなければならないハードルがあります。1時限目の最後は、そんないくつかの問題点を整理しておきます。

1)立ちはだかる、金融業態の壁

「プライベートバンキング」は、個人顧客のニーズにあわせた、トータルな資産運用・管理を柱とする業務です。しかし、日本の現在の専門金融機関制度では、トータルな資産運用・管理に必要な機能が異なった金融業態に分かれていました。 資料7をクリックしてください。

資料-07

「プライベートバンキング」のいくつものハードル

銀行業務 …商業銀行の機能

信託業務 …信託銀行の業務

カストディ業務 …商業銀行・信託銀行の業務

証券業務 …証券会社の業務

投資顧問業務 …投資顧問会社の業務

保険業務 …保険会社の業務

日本の金融行政はこれまで専業・分業施策をとってきたため、トータルなサービスが求められる本格的な「プライベートバンキング」には不向きでした。現在、金融自由化により業態別子会社等が認められていますが、欧米に比べたら「プライベートバンキング」業務を展開しにくい状態に変わりはありません。よりスピーディな規制緩和が望まれます。

2)個人顧客の意識はどう変わるか?

新富裕層が台頭しているといっても、全体としてその意識はまだまだアグレッシブとはいえません。長らく中流社会が続いた日本では、資産は運用するものというより、保全するものという意識が強いのです。しかし、相続や事業承継に伴う税金面の負担を考慮すると、資産保全のために多様な運用提案が可能な「プライベートバンキング」が必要だという意識は次第に定着していくでしょう。最大の問題は、次の“人材”です。

3)いままでの人事制度では、本当のプライベートバンカーは養成できない

この時間の最初のほうで、「プライベートバンキング」とは、『プライベートバンカーと呼ばれるリレーションシップマネジャーが、個人顧客のあらゆる金融ニーズに応じたオーダーメイドの総合的な資産運用・管理サービスを提供する業務』と定義しました。この業務の主体となるプライベートバンカーが、いまの日本の人事制度では育ちにくいのです。プライベートバンカーの基本は、顧客と10~20年、時には一生にわたる長期のリレーションシップを維持することで、時には親子二世代の担当をする場合もあります。数年ごとに配置転換が行なわれる従来の銀行の人事制度を改革し、プライベートバンカーとなり得る人材を育成することが、日本に「プライベートバンキング」が定着する最大の条件といえるでしょう。

どうです、みなさんもプライベートバンカーをめざしませんか。プライベートバンカーの仕事は、これまでの日本の銀行員像をはるかに越えた、とても重要で夢のある仕事です。

終了

これで、1時限目の講義は終了です。

「プライベートバンキング」とは何か、その基本概念や市場背景について理解できましたか?
次の時間から、プライベートバンカーの育成という視点に的を絞った講義をスタートします。
プライベートバンカーをめざす人、必携の講義です。2時限目も、がんばって受講してください。