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個人向けビジネス
ライフプランニング研修所
人生のマネープランを提案する、新しいスペシャリストになろう
3時限目 理論研修

ライフプランニングは総合生活経済学

こんにちは。ここからは、安等木講師からバトンタッチして私・金森が講師を務めます。ライフプランニングに必要な金融の理論や知識について理解を深める理論研修です。

それでは、理論研修の4ステップにわたるテーマをご案内しましょう。

なるべくわかりやすい講義をめざしますので、引き続きがんばって受講を続けてください。

#Step01微笑みだけでは金融サービスはできない

ライフプランニング業務に必要な“相談力”とは、“提案力×人間力”で構成されると前までの講義で学びましたね。いいかえれば、この仕事には知的な能力と精神的な豊かさが両方求められることになります。そんなファイナンシャルプランナーの資質について改めて認識し、さらに金融テクノロジーの発達から生まれた現代の資産運用の特徴について学びましょう。

1)クールヘッドとウォームハート

ファイナンシャルプランナーに求められるもっとも基本的な資質って、何だと思いますか?金融商品に対する豊かな知識、お客さまが心を開くコミュニケーション能力、こうした力はもちろん必要です。しかし、その土台に、極めて常識的な考え方や感性があることを見逃してはいけません。ファイナンシャルプランナーとは、お客さま個人の人生のリスクを経済的な側面からアドバイスし、回避する仕事です。金融を始め不動産、税金、年金など複数の専門領域をカバーし、お客さまにわかりやすく説明します。その際、お客さまとある程度人生の価値観を共有できなければ、そもそも相談業務は成り立たないのです。

ライフプランニングの世界では、「非常識な天才科学者はいても、非常識な天才ファイナンシャルプランナーはいない」といわれます。ファイナンシャルプランナーには、社会の常識をふまえた上でお客さまにあわせて高度な金融スキルを使いこなせる、クールヘッド(冴えた頭脳)とウォ-ムハート(温かな心)が必要です。まずこのことを認識してください。その上で、クールヘッドを作り出す金融理論について学びましょう。

2)資産形成と資産運用はどう違う?

次に、ファイナンシャルプランナーが提案するマネープランには、大まかに言って資産形成と資産運用の2つの領域があることを知っておきましょう。資料1をクリックしてください。

資料-01

資産形成期と資産運用期

資産形成期は、人生の負債を減らし、資産へと転化していく時期です。たとえば住宅ローンは負債ですし、子供の教育費や老後の生活資金も“未来に対する負債”といえます。住宅ローンの支払いや積立などにより、このような負債を減らし、未来のための資産をコツコツつくっていく時期が資産形成期です。こうして形成されたまとまった資産をなるべく減らさず、金融テクノロジーを駆使して増やしていくのが資産運用期。2つの時期には、それぞれ異なった提案や、対応する金融商品があります。

ライフプランニング業務の主要な対象となるサラリーマンなら、住宅ローンを払い終えて定年を迎えるまでが資産形成期、それ以降が資産運用期というケースが多いでしょう。また、相続や生前贈与などで、若くして資産運用期を迎える人もいます。一般に、資産形成期では運用の対象となる資金は小さく、資産運用期では比較的大きくなります。しかし、それぞれ異なった提案や対応する金融商品があるにも関わらず、その根底にある金融理論は、実は変わらないのです。

3)1万円でも10億円でも、基本のノウハウは同質だ

金融テクノロジーの発達により、投資の世界は大きく変わりました。従来は10億円の資金がなければできなかった運用法が、1万円単位の資金で成立するようになったのです。たとえば投資信託の1つに、インデックスファンドというものがあります。資料2をクリックしてください。

資料-02

インデックスファンド

株式投資では「どんな運用を行っても常に市場平均を上回る成績をあげることは難しい」とする考え方があります。そこで、日経平均株価や東証株価指数などインデックス(指標・指数)と連動する成果をめざし、インデックスの対象銘柄と同種・同比率で構成された投資信託がインデックスファンドです。

こうした運用方法をとる投資信託が実際に販売されるようになったのは、米国で30年前、日本では20年前位からであり、比較的新しい金融商品です。この商品の登場のためには、現代投資理論の進展と、その理論を実践するコンピューター技術の発達、さらにその意味を理解する投資家の登場という、複数の要因が必要でした。

市場平均と連動するインデックス運用には、多くの株式銘柄を買うための大きな資金が必要でした。しかし、投資信託なら数多くの投資家の資金をプールして運用するため、一人当たりは少ない資金であってもインデックス運用ができます。いいかえれば、1万円の資金を運用する場合でも、資金が1億円あるのと同じノウハウが活用できるのです。投資によってお金を増やすという観点から見れば、小さな資金も大きな資金も、資産形成期も資産運用期も、必要となる理論は変わりません。これから勉強するのは、そんな新しい時代のライフプランニングに求められる、もっともベーシックな投資理論です。

#Step02 個人と市場の仲をとりもつ

現代における資産運用は、世界的な金融市場と個人の資金を結びつける、実にダイナミックな側面を持ちます。個人が運用する小規模の資金であっても、世界中の機関投資家と同質のノウハウが求められるのです。このステップでは、こうした資産運用の枠組みについて学びながら、現在の投資理論の根幹をなす“リスク”について理解を深めましょう。

1)金融資産を運用する3つのポイント

個人が金融資産を運用する場合、従来は銀行に預金することが常識でした。バブル時代のように預金金利が5%もあれば、これは安全性と収益性を兼ね備えた実に効果的な運用法だったといえます。しかし、歴史的な低金利が続き、しかもペイオフによってリスクも明白となった今、銀行預金だけで資産を運用することは難しくなっています。債券や株式、そして海外の金融資産への投資も含めた効果的な金融資産の運用を、個人も積極的に考えていかなければならない時代になったのです。

ライフプランニングにおける資産運用の基本とは、3つのポイントからなります。資料3をクリックしてください。

資料-03

資産運用の3つのポイント

債券や株式投資の収益性は、その価格の値動きにより大きく変わります。そのため、個人の資産運用においては、売買による利益よりも「インカムゲイン」と言われる企業の配当金などの収益がその柱になります。そしてその価格変動性を緩和するために行われるが、ポートフォリオと言われる分散投資です。

ポートフォリオとは、元来は「紙挟み」の意味でしたが、その中に入れた資産明細の書類そのもの、そして資産の分散そのものを指すようになったと言われています。そして、このポートフォリオの構築こそが、現代の安定した資産運用にもっとも重要なことです。

2)“リスク”は掛け算すると小さくなる

ポートフォリオが重要な理由はなんでしょう?それは、資産運用に伴うリスクは、ポートフォリオを組むことで小さくなる性質を持つことです。

ここで、まず“リスク”の定義について明確にしておきましょう。皆さんの日常生活の中では、“リスク”という言葉はたいていの場合“危険”という意味で使っていると思います。それはけっして間違いではありませんが、投資の世界では意味が異なります。資産運用におけるリスクとは、価格の変動性が高く、収益が上下にブレることを指すのです。従って、リスクが高い商品は収益のブレ幅が大きく、高いリターンが期待できる代わりに元本割れの可能性も高くなります。リスクの低い商品は、元本割れを起こす可能性は低いですが、大きな収益は期待できません。一瞬のタイミングにかけた売買で高い収益をあげる投機の世界なら別ですが、安定した収益をめざす資産運用では、この収益のブレ幅を上手にコントロールする技術が求められるのです。

“リスク”については経済学の分野で、様々な研究が続けられてきました。その結果、安定した資産運用に役立つ次の2つの性質がわかってきています。

<1>長期にわたる運用では、収益のブレ幅は小さくなる。

<2>異なった値動きをする商品を組み合わせて運用すると、収益のブレ幅は小さくなる。

<2>の原理がより重要ですが、ここでは説明の手順の良さからまず<1>について説明しましょう。資料4をクリックしてください。

資料-04

国内株式投資の収益性推移の資産

グラフの中の期待収益率とは統計的に50%の確率で期待できる収益率のこと。確率98%の下限とは、これ以上収益率が下がることは2%しかありえないというラインです。下限ラインに注目してください。株式投資は投資を開始してから3年、5年と経過すると元本割れの可能性が高まり、その後10年を越えると元本割れの可能性は逆に小さくなることがわかります。

株式投資で損をするのは、多くの場合、リスクがもっとも高い短期の投資です。10年を超える長期の投資なら、株式投資は安定した収益をあげるケースが多いといえます。たとえば老後の生活資金など数十年にわたる運用期間をとれる資金は、株式投資に向いているといえるでしょう。

それ程長期ではなく、5年程度の短期で収益をあげるために役立つのが、リスクがもつ<2>の性質です。資料5をクリックしてください。

資料-05

国内株式投資と海外債券投資の組み合わせによるリスクの変化

組み合わせが国内株式40%、海外債券60%に近付くほど、収益のブレ幅は小さくなります。異なった値動きをする国内株式投資と海外債券投資を組み合わせることで、リスクは小さくなるのです。

リスクのこのような性質は、次のデータからも確認できます。資料6をクリックしてください。

資料-06

内外分散投資の効果

国内株式投資の背景となる株価年間騰落率と、海外投資に影響を与えるドル円為替レートは、単独ではブレ幅は非常に大きくなります。しかし、それぞれ異なった動きを持ち、両者を適切に組み合わせると(この場合は国内株式投資3割、外貨投資7 割)、それぞれの動きが相互に打ち消しあい、全体の動きは為替相場の変化、株式投資の変化のいずれをも下回る安定したものとなります。

異なる値動きをする金融商品を組み合わせるとリスクは小さくなる・・・これは現代ポートフォリオ理論と呼ばれ、現在の資産運用の根幹をなす投資理論です。

短期の運用では収益のブレ幅が大きい株式投資でも、債券投資や定期預金、そして海外の金融資産とポートフォリオを組んだ分散投資の一部として組み込めば、5年程度の運用でも十分安定した収益をあげることが可能です。これが分散投資効果と言われるもので、想像以上の効果をもったものです。こうした分散投資をさらに長期にわたり行えば、リスクはさらに小さくなるでしょう。

実地研修で、お客さまに金融商品を提案するにあたり、長期の分散投資を1つの例として学んだと思います。その理由は、ここにあげた2つの投資理論にあるのです。

3)長期間、地球サイズでリスクを散らす

このポートフォリオ理論を現実に適用するためには、市場の状況を正確につかんでいる必要があります。過去の統計を中心に将来の予測を入れてポートフォリオを考えるのですが、株高、株安、円高、円安など市場が今どのような状態なのかを見極めることは、専門の機関投資家であっても難しい作業です。さらに、投資する市場を国内に限定せず、海外まで視野に入れたグローバルな運用が求められます。そんなスケールの大きな資産運用が、ライフプランニング業務で可能なのでしょうか?

心配はいりません。投資信託の1つに「グローバル・バランス・ファンド」というものがあり、海外まで含んだ様々な金融商品を組み込むことで、お客さまのニーズにあわせた最適の分散投資が可能になっています。資料7をクリックしてください。

資料-07

グローバル・バランス・ファンド

標準的グローバル・バランス・ファンドは、世界の株式・債券の量に応じて地域別の投資配分を決めます。

国内投資の配分を多くするタイプや不動産、商品先物を組み入れるタイプもあります。

こうしたバランスファンドを活用すれば、たとえば毎月5万円ずつ、年間60万円をグローバルに運用することもできます。従来はまとまった資金が必要だった投資が、一般のサラリーマン世帯を始めとする資産形成層にも可能になったのです。

分散投資の商品の組み合わせを考えるには、まずお客さまのライフプランの実現に必要な収益率を計算し、同時にどの程度の収益が資産運用から得られるかを予測し、お客さまがどれだけのリスクをとれるかを考えて運用内容を決定することになります。収益率の計算はかなり専門的になりますから、ここでは触れません。ただ、ライフプランニング業務の背景に、こうした高度な金融テクノロジーがあることを理解してください。

#Step03人生を豊かにするお金の知識

話が世界の金融市場にまで広がってしまいました。ここで一旦、日常的な世界に戻りましょう。ライフプランニング業務には、不動産や税金、年金といった金融周辺領域の知識も求められます。こうした分野は、特に資産形成層のライフプランニングを行うにあたり、不可欠の知識といえるでしょう。このステップでは、皆さんの興味を高めるために、知らないと損をするお金の知識という視点から講義を進めます。

1)たとえば、あなたがマイホームを買うとしよう

「不動産や税金が、どうして金融と関わってくるのだろう?」皆さんの中には、そんな疑問を持つ人もいるかも知れませんね。確かに、伝統的な専門性の区分からは、不動産や法律、税金、年金などは金融とは異なる分野とされます。しかし、実際の業務では、これらは金融の実務と深く結びついているのです。それはライフプランニング業務に限ったことではありません。金融全体の理解を深めるためにも、こうした周辺領域にも興味をもってください。それでは、知らないと損をするお金の知識、まず不動産編です。

一般的に個人のライフプランニングを考える上で、不動産が登場するのは本人と家族が住む住居でしょう。その取得、管理について金融面、税務面について計画を立てることが重要です。ここでは、皆さんが将来東京近辺にマイホームを買うとして、どれくらいの住宅を保有できるかを考えてみましょう。

まず、東京や大阪といった大都市圏で一世帯が暮らせるようなマンションは、75平米がひとつの基準とされています。新聞などでマンションの立地別価格を比較する時も、75平米換算で行われることが多いようです。この程度の広さで東京都心から無理のない通勤圏にあり、駅から10分程度のマンションを借りれば、家賃は月15万円程度でしょう。皆さんが40歳代のサラリーマンだとして、このマンションに40年間住み続けるとすれば、家賃の支出は7200万円にもなります。この金額を払うとすれば、買った方が得かも知れませんね。

さて、この立地と同条件程度のマンションを購入するには、銀行から住宅ローンを借りる必要があります。その金利を考えて、返済できる範囲での借入となります。住宅ローンの金利を分析すると、3つに分かれます。資料8をクリックしてください。

資料-08

住宅ローンの金利に影響を与える3つの金利

皆さんが利用する住宅ローンが日本の短期金利につれて変動するタイプだとすれば、その金利は、長期的には5%程度になると予測できます。現在の低金利からすれば驚くべき数値でしょうが、専門家が予想する日本の実質経済の潜在成長力2%、およびそれに伴うインフレ1%などを前提にすると、十分考えられる数値なのです。ただし、インフレの部分は所得にも跳ね返りますので、実際の負担は4%となるでしょう。仮に40年間の借入期間として家賃並返済による借入可能額を計算すると、3600万円程度しか借入ができないことになるのです。

頭金などを考えると少し変わってきますが、基本的にはこのようなアプローチから住宅購入の是非を考えます。尚、一戸建て住宅の場合は、土地が残りますので、40年後に残った土地の処分価格を含めて考えていくことになります。

3600万円。ずっと家賃を払い続ける場合(7200万円)の半分の金額ですが、けっして小さくはありませんよね。また、もっと都心部に近い、広いマンションを買いたい人もいるでしょう。3600万円の負担を減らすか、あるいはもっと資金を調達するためにはどうすればいいでしょう?そこで役立つのが、次に紹介する税金の知識です。

(注)3600万円という値は、今東京都心近辺で販売されているマンションの価格とは幾分異なります。それにはさらに理由があるのですが、細かい話になるのでここでは割愛させていただきます。

2)もっといい家を買うための税金の話

住宅ローンの負担を減らすか、もっと購入資金を大きくするための1つの方法。それは親からの相続や贈与を最大限に活用することです。たとえば、生前贈与された資金で、住宅を購入する人は意外と多いもの。また、住宅そのものを相続する場合もあります。

現在の日本の住宅の状況を調べてみると、相続等で自宅を取得する人の割合は、借家の人の割合を超える勢いで増え続けています。資料9をクリックしてください。

資料-09

相続等による持ち家比率の推移

こうした生前贈与や相続を利用するためには、贈与税、相続税の知識が不可欠です。まず、贈与税の基礎控除額、つまり1年間に贈与しても税金がかからない額は110万円あります。マイホーム購入時に限らず使える制度ですから、よくありそうな話ですよね。

また、マイホーム購入のように、もう少しまとまった資金を贈与してもらいたいということもあるでしょう。平成15年から相続時精算課税制度が導入されました。この制度は、相続時にそれまでの贈与財産と相続財産とを合算して相続税を計算し、既に支払った贈与税相当額を控除するというものです。これにより、贈与者・受贈者の条件が満たされれば、合計で2,500万円までの贈与が課税対象から控除可能となりました。つまり、2,500万円まで贈与税がかかりません。この制度を利用すれば、手の届かなかったマイホーム購入も実現できそうですよね。実際、この制度が導入された平成15年に贈与を受けた人のうち、この制度を利用した人は18.1%を占めています。この制度導入の背景には、現金をたくさん保有している高齢者世代から、若い世代に資金移転させることで景気を浮揚させるという一面もあります。

次に、住宅ローンを利用してマイホームを取得したり増改築したりした場合、一定の要件を満たせば税額控除が受けられるということも知っておきましょう。平成25年中に入居した場合、10年間で最高200万円の税金が戻ってくる計算になりますので、個人が受ける税の軽減としてはかなり大きなものです。マイホームを取得する場合には、このような税金面での知識も踏まえて資金計画を立てる必要があるわけです。

このように、ライフプランニングを行う上で税金の知識は重要です。マイホーム購入に限らず、資金運用についても収益に対する課税を考えたプランを提案する必要があります。ファイナンシャルプランナーとして活動するためには、このような実践的な税金の知識を身につけ、お客さまに分かりやすい言葉で具体的な数字を示して説明することが重要なのです。

3)知らないと後悔する年金の知識

さて、最後は年金についての知識です。年金も、ライフプランを考える上でかなり重要なテーマです。「人生80年」といわれるように、60歳で定年退職しても、それからおよそ20年以上続く老後生活資金が大きな問題となってきているからです。

老後生活の主な収入源になるのが公的年金です。原則日本国内在住の20歳から60歳までの人が加入する国民年金、企業に勤めるサラリーマンを対象とする厚生年金、公務員を対象とする共済年金があります。日本の公的年金は、主にこうした現役世代が納めている年金保険料で65歳以上の高齢者の年金を支えるという「世代間扶養」という制度で成り立っています。現在は約4人の現役世代が負担する年金保険料で1人の高齢者の年金を支えているのですが、このまま少子高齢化進むと2030年頃には2人で1人の高齢者を支える時代がやってくるといわれています。

そうなれば支える若者の負担が重くなるか、高齢者が受け取れる年金額が減るかということが考えられますが、いずれにしても自分の老後生活のためには自助努力が必要となってくるわけです。

これまでサラリーマンは60歳から厚生年金の支給を受けられていましたが、段階的に支給開始年齢が引き上げられ、昭和36年4月2日以降に生まれた男性の老齢給付は原則65歳となりました。ともあれ、65歳以降にサラリーマンが受け取れる年金は、現在の水準で約210万円ということになります。ここで資料10をクリックしてください。

資料-10

国民年金(老齢基礎年金)の支給額(平成24年度)

厚生年金支給額と加入期間中の平均給与の関係(平成23年度)

加入期間40年で比べると、国民年金の年間支給額は約80万円、厚生年金なら平均的な給与の人で年間約130万円が支給されます。

また、公的年金は障害保険、生命保険の機能も備えた総合保険制度となっています。資料11をクリックしてください。

資料-11

国民年金に加入している場合なら、1級の障害と言われる重い障害を負った人には、年間約100万円が障害基礎年金として支給されます。子供がいる場合には、その子が高校を卒業できる時、つまり満18歳の学年末まで、ある程度の支給額の追加が行われます。仮に20歳で障害を負った場合なら、65歳の老齢年金の支給開始まで最大45年間の支給があり、その合計は約4500万円にもなるのです。

サラリーマンが加入する厚生年金の場合では、障害基礎年金に加えて、最低でも年間80万円程度(給与が厚生年金に加入していた期間の平均で月30万円の場合)の障害厚生年金が支給されます。また、配偶者がいる場合には支給額が追加されます。これも毎年のことですから、相当多額の障害保険に加入しているのと同じ効果があるといえます。

また、生命保険の機能としては遺族年金の制度があります。サラリーマンの夫が亡くなった場合、その妻は子供がいない場合、遺族厚生年金として年間約48万円(平均給与30万円の場合)を受け取ることができます。子供がいる場合には、満18歳の学年末まで国民年金から遺族基礎年金として年間約80万円が支給されます。子供が18歳を過ぎて遺族基礎年金が支給されなくなっても、サラリーマンの妻には一定の条件を満たせば、40歳から65歳になるまでの年間約60万円の年金が支給されます。毎年のことですから、かなりの「生命保険」に入ったのと同じ効果があるわけです。

ところで、国民年金と厚生年金保険では、年金支給額に大きな差があることにお気付きでしょうか。2つの年金の支給額を比較してみましょう。資料12をクリックしてください。

資料-12

国民年金(老齢基礎年金)の支給額(平成24年度)

厚生年金支給額と加入期間中の平均給与の関係(平成23年度)

加入期間40年で比べると、国民年金の年間支給額は約80万円、厚生年金なら平均的な給与の人で年間約130万円が支給されます。

妻が40年間国民年金に加入していれば、夫婦で合計約290万円が支給されます。

年金支給額にこれだけ大きな差がつくわけは、厚生年金保険の場合、サラリーマンは配偶者の国民年金の保険料相当額の負担もあるため、国民年金の場合の2倍近くを負担しているからです。ただ、そのうち半額は、勤務する企業が負担することになっているのであまり気がつかないだけです。しかし、企業は保険料の負担があれば当然給与を減らすわけで、実際はサラリーマンが負担しているのと同じことです。夫婦でみれば、自営業者の方は国民年金から夫婦で約160万円を受け取れ、サラリーマン夫婦は厚生年金、国民年金の合計で約290万円(男子の厚生年金加入者の平均的給与で計算した場合)を受け取ります。遺族年金の手厚さの違いなどもあり、概ね保険料の拠出額に応じた差があるといえるでしょう。ここで資料13をクリックしてください。

資料-13

国民年金と厚生年金保険の差

国民年金を建物の1階部分にたとえれば、厚生年金保険は2階部分に相当します。サラリーマンには、さらに3階部分として企業年金の制度がある人も数多くいます。一方の自営業者は、国民年金からしか年金支給を受けられません。

このような国民年金と厚生年金保険の差を埋めるため、自営業者の方には国民年金基金が整備されています。これは保険料を別に払うことで国民年金にプラスして年金を受け取れる制度です。自営業の方のライフプランニングとして、国民年金基金を利用するのも1つの手といえます。資料14をクリックしてください。

資料-14

国民年金基金

国民年金基金は、自営業者のための年金制度であり、月額6万8000円までの保険料の拠出が可能です。その拠出額は社会保険料控除の対象となり、税金が安くなる効果も大きいです。1991年に制度ができ、今では48万人が加入しています。

※平成15年をピークに減っている。
 平成25年度 現存加入者数=481,316人 累積加入員=160万人

厚生年金保険に加入しているサラリーマンも、安心はできません。前述したように1961年4月2日以降に生まれたサラリーマンは、年金の支給開始年齢が65歳へと引き上げられました。60歳の定年と65歳の年金支給開始まで空白の5年間とも言える期間が生まれ、生活にかなり不安が生じるのです。そこで、2002年1月から実施された確定拠出型年金制度、いわゆる日本版401kの個人型により、個人の自助努力を前提とした税制面での支援でこれを補う形になりました。また、これまで厚生年金基金や適格退職年金といった企業年金を持っていた企業も、これらに代えて日本版401kの企業型を導入するケースが増えてきています。

これらは年金の運用の一部を社員個人にまかせ、企業の負担を軽くするシステムです。これからは企業が退職金の給付原資をその都度社員に401kの拠出金として支給し、その後は社員個人が資産運用を行う時代になるでしょう。資料15をクリックしてください。

資料-15

確定拠出型年金制度(日本版401k)

従来の厚生年金基金、適格退職年金といった企業年金は、運用のリスクを企業が負担し、従業員は退職後に確定した給付を受けることができる確定給付型でした。日本版401kのうち、企業年金に代わるものとされる企業型は、企業が掛け金を拠出しますがその運用は従業員の一人一人が行い、企業はその運用がうまくいかなくとも責任は負わないというものです。また、企業年金のないサラリーマンや自営業者が加入するのが日本版401kの個人型です。企業型、個人型のいずれも個人の自己責任での運用となるため、日本版401kを導入する企業はその前提として十分な投資教育を行うことが法律で定められています。

日本版401kの場合、加入者自身が金融商品を決めて掛け金を運用するため、運用成績が悪ければ受取額が掛け金の総額より少なくなるリスクもあります。日本版401kに伴う金融商品の提案は、これからのライフプランニング業務の大きな柱となるでしょう。なぜなら、企業の実施する投資教育や、自営業者が持つ投資の知識は、的確な資産運用には不十分であることが予想されるからです。資産運用のための知識は、数時間の学習で得られるようなものではありません。いち早く確定拠出型年金制度を導入した米国の事情をみても、一度はわかったつもりで運用をしていた個人が、専門的なアドバイスを求めてファイナンシャルプランナーへ相談することが増えているのです。これからのファイナンシャルプランナーには、日本版401kへの対応が不可欠といえます。

さて、ここで次の時限まで皆さんに考えてもらいたい課題です。

課題

日本版401kの概要についてはわかりましたね。それでは、日本版401kの導入にともなって考えられる、銀行業務の新しい可能性はどんなものがあるでしょう。自由な発想で考えてください。

答は、次のステップアップ研修で明らかにします。

このステップでは、ライフプランニングに関わる不動産、税金、年金の話について、なるべくわかりやすく講義しました。皆さんに興味をもってもらうことが目的ですから、ここでお話したのは必要な知識のほんの一部です。実際のライフプランニング業務では、こうした金融関連領域の知識を組み合わせて使用するのだと理解してください。たとえば税金と年金の関係でいえば、企業年金のあるほとんどの企業では年金の一部一括受け取りの制度がありますが、年金として受け取る場合と一括で受け取る場合では税金のかかり方が違ってきます。こうした知識がなければ、年金に関わる的確な提案はできないでしょう。ファイナンシャルプランナーにとって、金融周辺領域の知識は欠かせないものなのです。

#Step04マクロの視点で資産を見よう

理論研修もいよいよ終盤。視点を日常生活からマクロ経済に移して、ライフプランニングに必要な金融と経済の基本ルールを理解しましょう。まずは、実質GDP成長率と資産運用の関わりからです。

1)GDPと君の給料はつながっている

ライフプランを考えていく上で重要なことは、お客さまの将来の収入が増加するか、金融資産がどの程度の収益性を持つかを、しっかり見極めることです。

そんな先のことはわからないと思いますか?しかし、ライフプランニングの基礎となる経済学では、経済の実質成長率と個人の収入の増加のベースはリンクすることがわかっています。GDPの将来の動きを予測することで、皆さんの将来の給料も予測できるのです。

経済が成長すれば、所得も基本的には向上します。インフレを除いた実質的な給与は、平均的には経済の成長と共に上昇してゆくでしょう。そうならない状態とは、経済成長がマイナスの状態です。日本経済の潜在的な成長力は、2%と言われています。過去のGDPと給与の推移は次のようになります。また年代別収入は次のようになります。資料16をクリックしてください。

資料-16

年代別収入(平成25年)

日本では年代別の給与水準は経済成長のスピード以上のペースで増加しますが、それは若い世代の賃金が押さえられ、逆に中高年の給与を高く維持しているためと分析されるのが一般的です。生涯賃金でみれば、経済成長との連動がすべてを決めると考えられます。

ライフプランニングの前提となる将来の収入が、実質GDP成長率から予測できることはわかりましたね。次の問題は金融資産の収益性です。これも、経済の成長力と密接にリンクします。運用する金融資産が預金であっても、債券や株式投資であっても、その投資成果は、それらを利用した企業の収益性によって決まります。簡単に言えば、GDPの成長性で決まってしまうのです。例えば「株価の変動」すら年単位でみれば、GDPの動きで説明できます。資料17をクリックしてください。

資料-17

実質経済成長率と年間株価騰落率

株価の変動を1年ずらすと、実質経済成長率の動きと概ね重なります。このようにGDPの動きを見つめることで、不可解と言われることもある株価の変動も、実は経済成長に裏打ちされていることがわかるでしょう。

また、預金などの収益性を決める実質短期金利(期間1年以内)は、金利規制が自由化されはじめた1980年代以後、実質経済成長率とおおむね一致します。資料18をクリックしてください。

資料-18

実質GDP成長率と実質短期金利の推移

金利規制が自由化され、80年代以後の実質GDPと実質短期金利の差異は小さい。

つまり、

実質GDP成長率≒実質個人所得上昇率≒実質短期金利

の関係が存在するのです。これは、ライフプランニングに不可欠となる経済と金融の基本ルールの1つです。

しっかり覚えておいてください。経験則では当たり前のことでしょう。高成長には高金利、低成長には低金利というわけです。

2)“2%”は、ライフプランニングの基準数値

日本の場合、長期的に見た達成可能な実質経済成長率は、2%程度と言われています。

実質GDP成長率≒実質個人所得上昇率≒実質短期金利

の関係から考えれば、個人の生涯所得はインフレを除いて実質2%で上昇すると考えられます。そして、短期金利も実質金利では2%と想定できます。たとえば短期金利に連動する銀行の1年定期預金で運用するなら、その利息収益は実質2%と予測できるわけです。ライフプランニングを考える上で不可欠の、生涯の実質所得はいくらか、金融資産運用がいくらになるかは、この2%という数値が基準となります。

仮に実質経済成長率が1%程度であれば、実質金利はやはり1%程度でしょう。住宅ローンなどの金利もこの1%を基準に決まりますから、低金利のローンを借りることができます。ゼロ成長ならゼロ金利ということになります。こうして予測がはずれても、たとえば、住宅ローンを短期金利に連動する変動金利型にしておけば、その不確実性はかなり軽減できます。

3)銀行金利は、インフレに負けるか?

最近、経済学者を中心に、物価が急激に上昇するハイパーインフレを心配する声が聞かれます。将来ハイパーインフレが本当に起これば、銀行預金の利率はインフレ率に負けてしまうと考える人もいると思います。しかし、それは1994年に銀行の預金金利が完全に自由化されて以降は考えられないのです。

かつては、預金金利が規制されていたため、インフレがおこっても預金金利が上がらず、インフレの被害を預金者が被ることがありました。しかし、今後の日本の銀行預金は、インフレに負けることはないでしょう。「物価が1ケ月間に800%上昇した1970年代のアルゼンチンでさえも、銀行預金の利子率は1ケ月800%以上であった。」(J.E.スティグリッツ「入門経済学」東洋経済新報社P421)という時代なのです。ただ、日本は1990年代に低成長時代に突入したため、金利も低く、このような金利規制の緩和のメリット面が正しく認識されていないようです。

これからの資産運用は、預金だけでなく、債券や株式投資を含んだものとなります。低成長、低金利の時代であっても、債券や株式である程度のリスクをとれば、資産運用の収益性は向上します。所得が増えにくい時代でも、金融資産が増えれば豊かな生活の可能性は増していくのです。1500兆円といわれる日本の個人金融資産を実質4%で運用できれば、年間収益は60兆円にのぼります。これは日本のGDP約550兆円の約1割に相当する数字であり、個人に引き直せば年収の1割アップも可能ということになります。また、このような金融資産による収入がなければ、老後の生活資金への備えができないともいえます。債券や株式投資の運用を含んだライフプランニングが、極めて重要な課題であることが理解できるでしょう。

この理論研修で学んだように、ライフプランニングとは個人の生活と密接に関わる経済学、いわば総合生活経済学です。ファイナンシャルプランナーに必要なクールヘッド(冴えた頭脳)とは、この生活経済学を理解して使いこなし、お客さまのライフプランに反映できる、実践的な知的能力ということができるでしょう。

終了

これで理論研修は終了です。

いかかでしたか?日常的な行為に見えるライフプランニングも、実は高度な経済理論をその背景にもつことが理解できたと思います。また、不動産や税金、年金の知識は、たとえ皆さんがライフプランニング業務に関わらなくても知っておきたい知識でしょう。専門的な話で理解しにくいところもあるかも知れません。何度でも復習して、基本となる理論を知識として覚えておいてください。

次はいよいよ最終講義のステップアップ研修です。銀行業の将来の可能性とライフプランニングの関わりについて講義します。また、ライフプランニング業務を担う「総合職(リテールコース)」についても学びましょう。次の講義まで、課題も忘れずに考えておいてくださいね。

課題

日本版401kの導入にともなって考えられる、銀行業務の新しい可能性はどんなものがあるでしょう。自由な発想で考えてください。

日本版401kについては、以下の資料を参考にしてください。

資料-19

確定拠出型年金制度(日本版401k)

従来の厚生年金基金、適格退職年金といった企業年金は、運用のリスクを企業が負担し、従業員は退職後に確定した給付を受けることができる確定給付型でした。日本版401kのうち、企業年金に代わるものとされる企業型は、企業が掛け金を拠出しますがその運用は従業員の一人一人が行い、企業はその運用がうまくいかなくとも責任は負わないというものです。また、企業年金のないサラリーマンや自営業者が加入するのが日本版401kの個人型です。企業型、個人型のいずれも個人の自己責任での運用となるため、日本版401kを導入する企業はその前提として十分な投資教育を行うことが法律で定められています。