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ストラクチャードファイナンス
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3時限目 深ぼり講座

LBOファイナンス

ねばり強く受講を続けていますね。私の講義も今回が、いよいよ最後の講義です。がんばって、「ストラクチャードファイナンス」についての勉強を完成してください。

3時限目は買収ファイナンスの一種であるLBOファイナンスについて掘り下げます。

#Step01LBOファイナンスの概念と特徴

1)1時限目を思い出してみましょう

まず資料を見て「LBOファイナンス」とはどのようなファイナンス手法だったか復習しましょう。資料1をクリックしてください。

資料-01

LBOファイナンスを活用した一般的な買収スキーム

LBOファイナンスは、対象会社(事業部門)のキャッシュフロー、資産を担保にし、買収資金の一部を金融機関から融資で調達し、負債比率を高めて買収を行う方法であり、1970年代より欧米を中心に発展してきました。被買収企業のキャッシュフロー、資産を担保に調達が出来るため、比較的少額の自己資金でも、それを梃子(レバレッジ)にして資金を集め、買収(バイアウト)出来ることから、このように呼ばれています。日本においても、1998年に国内LBOファイナンス第1号案件が組成されて以来、国内にも多数のプライベート・エクイティ・ファンドが設立され、発展してきました。

#Step02なぜ、LBOファイナンスを利用するの?

LBOファイナンスは一般的に借入金額が大きく、期間5年程度の長期の借入となること等から借入の金利も高くなります。また、買収対象企業のキャッシュフローに依拠したストラクチャーであることから、融資契約上で借り手に様々な制約を課します。融資契約書も1件ごとに作成するため、弁護士等の専門家費用も相応に発生し、多くの苦労がかかります。

ではなぜLBOファイナンスを利用するのでしょうか? 以下に、これらのデメリットを上回るメリットを列記してみます。

資金調達

通常買収にあたっては巨額の資金が必要なことが多いものの、買手である企業の買収に充当可能な資金には限りがあります。 そのため、自己資金のみで買収するよりも借入を合わせて買収に充当することでより大型の買収が可能となります。また、自己資金が少なく済む場合には、残った自己資金で他の買収案件を行う等の対応も可能です。
資料1をご覧ください。

資料-01

<資料1>自己資金のみによる買収とファイナンスを活用した買収の比較

ノンリコース

LBOファイナンスを取り組む際には、当該買収のみを実施する事業主体となる会社を設立し、買手はそこに出資するかたちをとります。この会社を一般的にSPCと呼びます。プロジェクトファイナンスと同じですね。買収資金の資金調達はこのSPCが行い、そこに出資するスポンサーは調達資金の返済義務を負いません。したがって、買収者のリスクは出資金部分のみに限定できるというメリットがあります。

レバレッジ効果

買手が買収資金を全額自己資金で支払うほうが、借入で調達して高い金利を支払うよりも得なのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、借入をした方が投資効率面で買手にとっては得なのです。 以下で、対象会社の全株式を買収するための資金100億円を、買手が全額自己資金で行うケースと、70%を借入で調達するケースに分けて、考えてみましょう。 簡略化のために、対象会社の毎期の利払前当期利益が10億円、借入の条件は期間5年で期限一括返済、金利は5%とし、税金、取引費用等は考慮しないものとします。ファイナンスの世界では、企業価値は資本(株式価値)と負債を合わせた金額と考えられています。したがって、買収時点の企業価値はいずれも100億円です。

全額自己資金で行うケースでは、毎期利益の蓄積が10億円ずつありますので、5年後には株式価値は50億円(毎期の利払前当期利益10億円×5年)増加します。つまり、買手は100億円投資して、5年後に150億円の価値を得たことになりますね。5年間で1.5倍となったということです。

一方、70%を借入で調達するケースでは、毎期の金利負担が3.5億円(70億円×5%)ありますので、5年後には株式価値は32.5億円((毎期の利払前当期利益10億円-利払費用3.5億円)×5年)増加します。買手は30億円投資して、5年後に62.5億円の価値を得たことになります。5年間で約2.08倍となっています。借入を行うことで、少ない元手で効率的なリターンを確保できており、投資効率があがったといえます。これが、「レバレッジ効果」とよばれるLBOの大きなメリットです。
資料2をご覧ください。

資料-02

<資料2>レバレッジ効果

#Step03LBOファイナンスの主要プレーヤー

次にLBOファイナンスの主要なプレーヤーを簡単にご紹介します。

売手

ケースとしては多岐に渡りますが、代表的なものは以下のとおりです。

1)一般事業会社がノンコア部門(子会社等)を売却する場合

2)バイアウトファンド等がMBO等で買収した会社を売却して投資を回収する場合

3)オーナー会社の事業承継絡みで株式を売却する場合

4)事業再生案件等で窮境にある事業会社が資産の一部を事業譲渡で売却する場合

買手

大きく分けて二種類。MBO取引等に投資を行うバイアウトファンド(「フィナンシャルバイヤー」と言います。)、と一般事業会社(「ストラテジックバイヤー」と言います。)。また、少数ではありますが、対象会社の経営陣が買手となる場合もあります。LBOファイナンスでは、買手が買収受皿会社の普通株出資者(エクイティ出資者)となります。

MBO/LBOファイナンス提供者

当行では同ファイナンスのなかでも、主に買手の依頼により(担保付の)返済順位が一番高いシニアローンを取り扱います 。またシニアローンとエクイティの中間的な存在として、劣後ローンや優先株投資を行うメザニン投資家 も存在します。

M&A取引のFA(Financial Advisor)

LBO 取引に際して、各売手・買手の立場でアドバイザリー業務を行うもののことをいいます。当行関連では、企業情報部等が当該業務を行っています。M&Aのアドバイザリー業務は、銀行が顧客と同じ立場にたって顧客の利益を図ることを主たる目的とする業務であり、通常の銀行業務である与信取引、預金取引等の取引とは異なった性質をもちます。

#Step04LBOファイナンスの取引プロセス

次にLBOファイナンスを実行する上での流れを簡単にご紹介します。

1)案件のニーズ聴取

顧客や関連各部、プライベート・エクイティ・ファンド等からLBOファイナンスの具体的ニーズを聴取します。M&Aに関する情報は、いわゆる「重要情報」に該当する守秘性の高い案件も多いため、情報管理は厳格に行っています。

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2)行内チームアップ

必要に応じて、法人営業部、企業調査部等がチームアップをし、案件の初期的検討、ストラクチャリング、スケジュール等について打合せを行います。

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3)意向表明書

初期的な検討後、買手に対して資金面からサポートする意思があることを表明します。

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4)フィージビリティー・スタディー、デューデリジェンス

買手が実施するデューデリジェンス資料や買手が作成する事業計画等を基に、ファイナンスを実施するうえでの、買収対象企業のあらゆるリスクを分析します。更にこれに基づいた返済シミュレーションを作成し、適切なファイナンス・ストラクチャーや融資条件を検討します。

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5)融資主要条件の提示

上記の検討結果を踏まえて、融資の主要条件(「タームシート」と言います)を買手に提示します。

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6)コミットメントレターの提出、マンデートの取得

タームシートの内容、過去の実績等から、LBOファイナンスの主幹事行(マンデート)が決定されます。銀行はタームシートの条件に沿っていれば融資を実行する旨を約束した書面(コミットメントレター)を買手に提出し、買手がそれに了承するとマンデート取得となります。買収プロセスにとって、銀行からのコミットメントレターは買手にとって、買収資金の資金調達を担保するという意味で非常に重要です。また、銀行にとって、マンデートを取得することはステータスであると同時に、単なる参加行と比べ大きな手数料収入を得ることが出来ます。

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7)ドキュメンテーション、シンジケーション

膨大な量のファイナンス契約書を作成(ドキュメンテーションと言います。)します。LBOファイナンスにおいては、原則対象会社の全資産を担保にとりますので、担保契約も複数作成します。また、買収金額が巨額なケースも多いため、銀行団(シンジケート)を組成しますが、守秘性の高い案件も多く情報管理の観点からクロージングまでは1行(あるいは共同幹事行数行)で融資を実行し、その後債権譲渡のかたちで銀行団を組成することもあります。

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8)クロージング

契約書に調印し、融資実行。M&A取引が完了します。

これまでの説明からプロジェクトファイナンスと似ているなと感じている方も多いでしょう。両者の違いは何でしょうか?

プロジェクトファイナンスとLBOファイナンスは、ノン・リコースのキャッシュ・フロー・ファイナンスという点では類似しています。しかし、最大の違いはファイナンスの対象の違いです。プロジェクトファイナンスの講義で勉強したように、プロジェクトファイナンスとは特定の事業を対象としていますが、LBOファイナンスの場合は企業そのものあるいはその一部門の買収であり、複数事業を行っているケースが多いです。そのため、企業活動のなかで経常的に設備投資や研究開発を行ったり、グループ企業をいくつも抱えていたり、仕入先・販売先等の変動等の影響により、プロジェクトファイナンスよりもキャッシュフローの予測の確度は低くボラティリティが高いと言えます。したがって、LBOファイナンスにおいてはそれらのリスクをなるべく軽減できるよう、事業毎やセグメント毎、製品毎にキャッシュフローを精査したうえで、ファイナンス・ストラクチャーを検討します。

#Step05その他のM&Aファイナンス

サポート体制

M&A関連のファイナンスの手法はLBOファイナンスだけではありません。特に最近では、内需縮小・低金利等を背景に、日本の企業が海外の企業を買収するIN-OUTクロスボーダーM&Aの案件が増加しています。当行でもLBOファイナンスだけではなく、日本の企業が海外の企業を買収するIN-OUTクロスボーダーM&A案件へのサポート体制を強化しています。
資料1をご覧ください。

資料-01

<資料1>サポート体制

クロスボーダーM&Aファイナンスとは

クロスボーダーM&Aとは日本企業が自社、海外子会社又はSPCを経由して出資金や借入を資金に海外の企業買収を行う行為の総称です。近年新聞等で日本企業が海外企業を買収するという記事を目にした方も多いでしょう。もちろん買手企業が手元に持っている資金で買収することもありますが、買収資金が大きくなると借入や社債発行、増資等により資金調達をするケースも多数あります。

クロスボーダーM&Aファイナンスは買収交渉から実際の買収完了までの買収プロセスの時間的制約、買収資金を外部から調達した際の買手企業の連結ベースでの財務への影響が買収完了時点までには精査ができないなどの理由から、買手である日本企業宛のブリッジローン(一時的な短期間のつなぎ資金)を介した調達を行うことが一般的です。ブリッジローンにより買収を完了させた後、長期のローンへの切替あるいは社債発行・増資等ローン以外の他の調達手法も含めたパーマネント・ファイナンス(長期の資金調達)へ切り替えを行います。資料2をご覧ください。

資料-02

<資料2>クロスボーダーM&Aファイナンス概要

ストラクチャー検討の論点

ブリッジローン段階においてもパーマネント・ファイナンスを見据えたローン・ストラクチャーの検討を行います。具体的には、①買収の形態(買手である日本企業が直接買収or海外SPC・海外子会社を経由した買収)、②被買収企業が生み出すキャッシュフローをどうやって還流させるか(配当orローン)、③資金調達の主体(買手である日本企業or海外SPC・子会社)、④借入通貨(円貨or外貨)、⑤借入の形態(リコースorノンリコース)等を、被買収企業所在国のM&A関連法制・税制や為替変動による連結ベースでの財務諸表へ与える影響等も考慮しつつ検討します。資料3をご覧ください。

資料-03

<資料3>ストラクチャー検討の論点

ブリッジローン検討時点では守秘性の観点からターゲット企業の開示される情報も限定されているため、ブリッジ・ローン検討後より詳細のデュー・デリジェンス資料等を基にパーマネント・ファイナンスのストラクチャー検討を進めます。パーマネント・ファイナンスにおけるローン・ストラクチャーは、買手である日本企業もしくは海外子会社によるコーポレート・ローンによる調達、海外でのSPCによるノンリコース・ローン(LBO)、円建もしくは外貨建いずれのストラクチャーも可能です。

M&Aの取引プロセスとファイナンスの流れ

クロスボーダーM&Aの一般的な買収フとファイナンスの流れは以下のとおりです。ファイナンスに係る検討事項は上記のとおり多岐に渡るため、当行では買収交渉の早い段階からサポートさせて頂いています。
資料4にそのフローをまとめてみましたのでご覧ください。

資料-04

<資料4>M&Aの取引プロセスとファイナンスの流れ

まとめ

M&Aプロセスにおいて果たす銀行の役割についてイメージをつかんで頂けたでしょうか? これで3時限目の講義は終了です。

まとめ

最後まで受講していただき、ありがとうございました。

ストラクチャードファイナンスは用語としては定着してきたとはいえ、なかなかわかりにくい分野だとされています。最後はかなり専門的に突っ込んだ箇所もありましたが少しでも関心を持ってもらえれば幸せです。

今回紹介した2 つの手法はあくまでも代表的な事例に過ぎず、これからの新しい手法はこれから金融界で活躍していく皆さんが 創造していくことになります。

言いつくされた表現ですが、「金融は経済の循環機能」であることに疑いはありません。日本経済の発展と金融改革の一翼を担 うストラクチャードファイナンスの世界で是非皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。

ストラクチャードファイナンス営業部 下山 曜