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法人向けビジネス
ストラクチャードファイナンス
ホールセール業務ゼミ
1時限目 早わかり講座

ストラクチャードファイナンス

私の講義では、国際金融市場における代表的なファイナンス手法であり、日本でも定着してきた「ストラクチャードファイナンス」についてお話ししたいと思います。

1時限目は、まず「ストラクチャードファイナンス」とは何かということ、そして代表的な2つの手法の概要について。時間があったら、私の経験から考える、ストラクチャードファイナンス業務で成功する条件についてもお話しします。

#Step01ストラクチャードファイナンスって何だ?

1時限目はストラクチャードファイナンスのイメージを掴んで頂くことを目的とします。先ず、ストラクチャードファイナンスの定義を解説し、日本でも定着するようになった時代背景についてやさしく説明します。

その後、代表的な手法としてプロジェクトファイナンスとLBOファイナンスを紹介し、どのようにして取引は進められるのか、どういったスキルが必要なのか、そしてこの業務で成功していくための秘訣は何かについてお話しましょう。

1)ストラクチャードファイナンスの定義

この言葉が日本で幅広く使われるようになったのは1980年代のことで、特に決まった定義はありません。直訳すれば「仕組み金融」であり、平たく言えば「何か仕組みがひとひねり入ったファイナンス手法」などと、とても広い意味で使われています。

でもこれでは焦点がぼけてしまうので、敢えて私独自の解釈をさせてもらえば、「企業が行う事業や保有する資産の価値に着目することで企業本体の信用力から切り離された資金調達を可能にする方法」とでも申し上げましょう。企業にとってみれば、自分自身の信用のみに依らず資金調達ができる・・そんな都合のいいことができるのでしょうか。

2)なぜ、いま、ストラクチャードファイナンス?

ここで、簡単にストラクチャードファイナンスが注目される時代背景についてご説明しておきましょう。

バブル経済崩壊後の企業の財務リストラニーズ

20年近く遡りますが、1980年代後半からのバブル経済期に日本の多くの企業は有り余る資金をバックに、過大な設備投資の他、不動産や株式への投資を増大させてバランスシートはどんどん膨れ上がりました。資金は簡単に調達できましたし、地価や株価は永遠に上がるものだという神話さえ存在しました。それが突然崩壊した後残ったのは水膨れした不稼働資産であり、銀行も土地を担保にした融資拡大に傾注した結果、多額の不良債権を抱えることになりました。

日本経済は1990年代後半から、この不良債権を少しでも減らすことに多大なエネルギーを費やしたことにより、構造改革に遅れ国際的な競争力も低下したと言われています。その間、企業の評価基準も規模やシェアよりも、ROEやEVAといった収益基準が重視されるようになり、株主重視の経営、格付機関の台頭、量から質への転換が進みました。そして現在、日本企業は過去の負の遺産と決別し、強固な財務基盤を築く一方、成長が見込まれる分野に対しては積極的かつグローバルに投資を行うことで競争力を強化しつつあります。もはや過去のように簡単にお金を借りてバランスシートを膨らましながら低収益の事業に甘んじることは許されなくなっているのです。

通常銀行が企業に融資を行う(コーポレートファイナンス)場合には、その返済の確実性を企業の信用力に求めます(企業自身に返済が遡求されるため、「リコース・ローン」と呼ばれます。)。そのため、よく「ヒト・モノ・カネ」と言いますが、企業の経営者としての手腕、取り扱っている製品とその商流、及び貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書等の財務実績を精査したうえで、融資を行います。

企業自身(仮にA 社としましょう)は返済義務を負わず、A社自身が当該プロジェクトに対して出資した金額に限定されます。(「ノン・リコース・ローン」と呼ばれます。) 銀行や投資家等資金の出し手は、その返済の確実性をA 社の信用力に求めるのではなく、A 社が行う特定の事業(プロジェクト)の成功度合い、つまり将来キャッシュフローに依存するのが大きな特徴です。

一方、LBOファイナンスとはM&A取引に関する資金調達の一種で、M&Aの買収企業が、買収企業自身の信用力ではなく、買収対象企業(被買収企業)の信用力を基に資金を調達するものです。プロジェクトファイナンスと類似していますが、その返済の確実性は買収対象企業のキャッシュフローや資産に依存します。

制度改革の進展

1990年代後半以降日本経済の再生と国際競争力の強化のため、政府も矢継ぎ早に制度改革を行ってきました。不良債権処理や企業再生関連を中心に、かつてないテンポで新しい制度や法律の整備が進んだ結果、それまで海外ではできたけれど日本国内では法律や税務の観点から難しかった金融手法が可能になることも多くなりました。また、企業会計の面でもそれまで曖昧だった会計基準がより国際的な基準に近く改革され、同時に企業年金債務や新連結会計基準等いわゆる「会計ビッグバン」と呼ばれる新しい制度も導入された結果、今では国内外の垣根はかつてでは比べものにならないほど低くなっています。

金融技術の発展と競争の激化

ストラクチャードファイナンスなど新しい金融手法は、自由化で先行する欧米市場で生み出されたものが国内に持ち込まれ、市場に馴染む貌で発展してきました。1990年代後半以降、市場開放を商機ととらえた外資系金融機関が続々と国内市場に参入しました。彼らはIT技術や海外市場での経験とノウハウを背景に、デリバティブなど新商品開発の分野を中心に国内金融機関と激しく競り合う一方で、様々な分野で提携や再編も起こりました。こうした動きを通じ、新しい手法や商品が普及するのと同時に日本独自のものも生み出され、全体として発展してきたのです。特にストラクチャードファイナンスは1件1件テーラーメードですので「どうやったらできるのか?」という着想やアイデアが肝心といえます。また、実行力すなわち「事業や実物資産のリスクを様々な種類に分解し、各々のリスクに見合った資本の出して(投資家)に提供する能力」、言い換えれば「事業やモノといった実物経済と金融市場の直接的な橋渡し役としての機能」もこの分野での競争力を左右する重要な要素といえます。現在、内外の金融機関はこうした「アイデア」と「実行力」を競って日々凌ぎを削る激しい競争を繰り広げています。

#Step02代表的な2つの手法

ストラクチャードファイナンスが具体的にどのようなものを指すのか、みなさんのイメージをもう少しクリアにするために、代表的な2つの手法について簡単にご紹介しましょう。

いままでの説明で「バランスシートを使わないファイナンス」というのが1つのキーワードになっていることにお気づきだと思います。企業自身(仮にA社としましょう)が返済義務を負わないため、銀行や投資家等資金の出し手は、その返済の確実性をA社の信用力に求めるのではなく、A社が行う特定の事業(プロジェクト)の成功度合いに依存するのがプロジェクトファイナンスであり、A社が既に持っている特定の資産(アセット)の回収の確からしさ(債権)や処分の確からしさ(物権)に依存するのがセキュリタイゼーション(資産の証券化)です。

1)プロジェクトファイナンス

国際企業のA社が、大規模な石油開発プロジェクトをスタートするとします。銀行が、そのプロジェクトに限定して融資を行う、言い換えれば原則的に返済財源を特定のプロジェクトから生じる収益に限定し、担保もそのプロジェクト資産に限定した金融のことを「プロジェクトファイナンス」といいます。

もし、そのプロジェクトが途中でとん挫して、資金が回収できなくても銀行はA社に「貸したお金返して」とはいえないのです。従ってそのプロジェクトの成功度合いを厳しく吟味する専門的な審査能力が不可欠です。資料1をクリックしてください。

資料-01

プロジェクトファイナンスって、何だ?

「プロジェクトファイナンス」は、資金使途を第2プロジェクトに限定して融資します。返済原資も原則として第2プロジェクトに関わる収益に限定され、担保も第2プロジェクトの資産のみとなるのが普通です。従って、A社が展開する他のプロジェクトや事業、資産は、返済の財源とはなりません。

2)LBOファイナンス

「LBO」とは「Leveraged Buy-Out」の略で、出資金と共に一部借入を資金に企業買収を行う行為の総称です。少ない自己資金でより大きな買収を行う事が可能であり、当該取引に利用される借入のことを「LBOファイナンス」といいます。買収企業の信用力でなく、買収対象企業(被買収企業)のキャッシュフローや資産に依存した資金調達となります。また、新聞記事等で「MBO」という言葉を目にしたことがある方も多いかと思います。「MBO」とは「Management Buy-Out」の略で、LBOの一類型であり、既存会社の経営陣が既存株主から自ら経営している会社の株式を買収することをいいます。当該取引に利用される借入のことを特に「MBOファイナンス」といいいます。

MBO/LBOファイナンスは対象企業のキャッシュフローに依拠した貸金で、通常のコーポレートファイナンスに比べて借入の水準が高く、リスクの高いファイナンスであるので、特殊なストラクチャリングを施した対応が必要となります。

資料-02

LBOファイナンスを活用した一般的な買収スキーム

#Step03完結までのプロセス

ストラクチャードファイナンスの案件を完結させるまでは1案件毎にかなりの時間を要します。まず企業から「あなたの銀行にお願いする」というご指名(業界用語で「マンデート」といいます)を頂くまでに激しい競争があります。勿論価格だけの勝負ではなく、その企業ニーズにマッチしたアイデアの提案力、業界での信用力、過去の実績等々あらゆるポイントを評価されて初めて獲得できる名誉です。

そして一旦マンデートを頂いたら、あとはその提案を実行に移すプロセスに入ります。銀行内だけでなく、例えば証券会社、法律事務所、会計事務所等の専門家とチームを組成し、「アレンジャー」として青写真を現実の契約書に落とす作業が展開されます。この業務のおもしろさは外部の専門家と同じ立場に立って切磋琢磨できること、意外と狭い世界なので著名な弁護士や会計士と同じプロジェクトを進める過程では多くのことを学び自分のスキルも高められることが何より魅力だと思います。

資料3をクリックしてください。

資料-03

クロージングまでのプロセス図

#Step04求められる資質と三井住友銀行の戦略について

1)求められる資質

ストラクチャードファイナンス業務が高い専門性とスキルを要する分野であることは事実です。例えば契約のあらゆる部分が法的に有効であることを検討できること、各業界・産業に関する高い知見を持っていること、会計税務に明るいこと、時にはかなり高度な数理統計分析も求められます。勿論これを1人でこなす訳ではなく、チームワークの中で解決していくことですから各分野で秀でた能力がそれぞれ個人には要求されます。といってもご心配なく。何も今そのスキルを持っていることが必要条件ではありません。最初はみんな右も左もわからない状態で、経験をつんで本物のプロに育っていくのです。ただ、プロになるために必要な要素はいくつかあります。

常に問題意識と好奇心を持ち、チャレンジ精神に富む人であること

自分を磨き、一流のプロになるための向上心をいつまでも持続できることが必要です。ストラクチャードファイナンスは金融の新しい仕組みを創造する仕事です。一芸に秀でた人材になるための努力・研鑽は何歳になっても不可欠です。

多少のことでは諦めない粘り強さを持てる人であること

前例のない仕組みを作るわけですから、すぐに諦めていては何もできません。一旦信念を持てば多少のハードルにもめげず、どうすれば克服できるかという努力を常に怠らないことが成功の鍵ともいえるでしょう。

主体的に行動でき、かつチームワークを大切にできる人であること

この分野は20歳代の若手スタッフこそプロジェクトの中心です。従って若手でも日本を代表する大企業と互角にわたりあって交渉するチャンスも十分に有ります。自分は「こう思う」としっかり主張し、かつチームワークですから協調性も必要です。こういった主体性や自分自身の座標軸は何回か大きな経験を積んでいけば次第に身に付いていきます。

2)当行の戦略について

当行では、プロジェクトファイナンスやLBOファイナンス、債権や不動産の流動化等、信用供与機能を軸とした銀行ならではのストラクチャードファイナンス業務を展開しています。間接金融を主体としながらも、債券市場や銀行間市場で常にトッププレーヤーとしてマーケットにアクセスし、企業の信用リスクのみならず、次回以降お話する事業リスクや資産リスクの仲介を積極的に行っています。

当行ではこのような機能を「市場型間接金融」と位置付け、ホールセール業務の柱として今後とも力を入れていく方針です。

私の主な仕事は、銀行の持つこのような国内外の多様な機能をコーディネートし、企業ニーズに的確に対応できるプロジェクトをマネージすることです。

まとめ

これで、1時限目の講義は終了です。

ストラクチャードファイナンスという耳慣れない言葉だと思いますが、何となくイメージはつかめましたか?

2時限目以降は、先に紹介した2つの代表的な手法について更に掘り下げて説明します。

なぜ、このような手法が今注目されているのか考えながら受講して下さい。

課題

プロジェクトファイナンスは沢山のプロセスと労力がかかるのは想像出来たと思います、では何故プロジェクトファイナンスを利用するのでしょうか?

・・・解答は、2時限目で明らかにします。