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3時限目 中級講座

デリバティブの本質

がんばって受講を続けていますね。課題は考えておいてくれました?1時限、2時限と充分に理解が深められたでしょうか。私の講義も、今回で最後です。コーポレートファイナンスの視点から見た「デリバティブ」の本質について、正しい理解を深めてください。

3時限目は、2時限目の最後にふれたデリバティブ理論へのプロローグをより発展させ、「デリバティブ」の理論的背景について講義します。

また、銀行のコーポレートファイナンス業務にとっての「デリバティブ」の可能性や、デリバティブ業務に求められる人材像についても勉強します。まず、デリバティブ理論の大前提となる、「現在価値」から講義をはじめましょう。

#Step01デリバティブの理論にふれよう

これまで勉強してきた多様な「デリバティブ」。その理論的背景について、少しだけふれてみます。まず、2時限目の課題2を考えることからスタートしましょう。

1)「現在価値」という考え方

「現在価値=(PV:Present Value)」とは、高度なデリバティブ理論すべての前提となる考え方です。まず、さっそくですが2時限目に出した課題2の答を考えてみましょう。

「課題2.金利を2%とした場合、現在の1万円と1年後の1万円の、“今の価値”はいくらでしょう?」

この答を考えておいてくれましたか?特に難しい問題ではありません。すぐに計算することができます。資料1をクリックしてください。

資料-01

現在価値(PV:Present Value)

金利を2%と仮定します。現在の1万円は安全に運用すれば1年後に利息が加わり10,200円になります。逆に考えれば、1年後の1万円は、今の時点では利子の分を割り引いた金額の価値しかありません。

現在の1万円の“今の価値”は、当然1万円です。しかし、1年後の1万円の“今の価値”は、9,804円しかありません。こうした、将来その原資が生む価値を割り引いた金額が、デリバティブ理論の前提となる「現在価値」なのです。

2)「為替予約」の相場を計算しよう

もう一つ、デリバティブ理論を進めていくに欠かせない考え方に「裁定(=Arbitrage)」という概念があります。

1時限目でお話ししましたように、「デリバティブ」とは原資産の価格体系を利用して様々な「バーチャル取引」を市場の世界でルール化したものです。そこでの具体的な取引の条件設定においては、誰もが「リスクなしでもうける機会」がないような価格設定で取引が開始されます。

原資産が100円でしか買えない状況下で、同じ原資産を80円で買える権利が10円で取引されるわけがないことは容易に想像できるでしょう。

それでは最も簡単な事例として1時限目で勉強した「為替予約」を思い出して下さい。

将来の決まった期日に、ある通貨を決まった値段で買う、または売る約束のことでした。ここで、「為替予約」の相場をいくらに設定すればよいのか計算してみましょう。資料2をクリックしてください。

資料-02

為替予約相場の理論値

現時点で同じ価値のお金は、日本で1年間運用してもアメリカで1年間運用しても、結局同じ価値になるはずです。よって現時点で設定される為替予約相場は、この考えを満たすよう導かれる等式より求めることができます。Fで求めた104,81円が、現時点における理論値(=裁定値)であり、これ以外の値は考えられません。

もっとも、実際に1年経過すると、この予約を行ったことによる実際の損益は1年後の為替相場に左右されることは先述したとおりです。

#Step02この「スワップ」は、損か、得か?

以上の考え方を使って、「スワップ」の価値を計算してみましょう。ここでは、少し詳しく計算方法について解説します。ぜひご自分でもチャレンジしてください。

1)まず、質問です

期 間/2年間

受 取/1年TIBOR: 現在の1年短期金利は5%〔0 r 1=5%〕

1年後の1年金利〔1 r 2〕は現時点では不明ながらここでは7%と仮定しましょう。

※ m r nは〔m年からn年までの市場金利〕の意(変動金利)

支払い/1、2年後にそれぞれ6%(固定金利)

支払い、受取の条件がこのような「スワップ」を取り組むべきでしょうか。「スワップ」の「現在価値」の計算方法について、まず解説します。ご自分で計算してみてください。では、資料3をクリックしてください。

資料-03

現在価値の計算

受取、支払の「現在価値」をそれぞれ求めると、支払のほうが540万円大きくなりました。

よって、このスワップは取り組まないほうが得といえます。しかしながら、資料3で説明したように、このように受取・支払のPVが一致しない(=裁定が働く)ような、条件設定は行われません。

スワップの「現在価値」の計算方法

市場の金利は、ごく短期の金利から10年金利といった長期のものまで「期間構造」を持っています。例えば横軸に期間(1日から10年まで)縦軸に金利水準といったグラフを作れば、今の金利の期間構造が一目でわかります。(このグラフを「イールドカーブ」と呼びます。右上がりであれば長期金利の方が短期金利より高いことを示します)2時限目で勉強したように「金利スワップ」は一定期間(例えば5年)の間、その全期間の長期固定金利と、短期間(半年や1年)で変動する短期変動金利を交換する取引です。ここで先程の「現在価値」と「裁定」の考えを思い出して下さい。

資料4に示すように、今の時点で「将来の短期金利」はわかりません。

しかし、金利の期間構造から「類推」することはできます。

例えば、1年後から始まる1年もの金利 1r 2は、(1+ 0r 1)(1+ 1r 2)=(1+ 0r 2)2 という関係を万人が認めれば、現在の1年金利 0r 1と現在の2年金利 0r 2で求めることができます。

先の為替予約の決め方とどこか似てますよね。

このようにして、将来の短期金利を「類推」し(これをImplied Forward Rateといいます)、資料4のように変動金利と固定金利の現在価値が等しくなるようなFIX(固定金利)の水準が、5年の金利スワップ固定金利として建値されることになります。重要なことは取引開始の現時点において、裁定は働かない(将来の受取と支払の理論値は「同値」となること)ということです。もっとも、時間が経過して将来の短期金利が明らかになってきますと、このスワップ自体の損得が次第に実現してくることになります。

計算は終わりましたか?できた方は、資料4をクリックしてください。

資料-04

スワップの「現在価値」の計算方法

通常、「スワップ」は、受取と支払の双方の価値が等しい条件でスタートします。その後金利の変化により、この問題のように受払いネットの「現在価値」が0から離れていきます。スワップ自体が価値をもって動き始めるわけです。例えば資料4の例でいえば、取引開始から3年が経過して残り2年となったと仮定しましょう。

過去3年間の受払い金額はもちろんイコールではなかったはずです。

また残り2年の価値も当然その時の金利体系で評価しなおせば、当初のように0とはならないはずです。この評価(+か-か)こそ、このスワップの3年目の価値なのです。

次は、いよいよデリバディブの真髄、「オプション」の価格理論について。

2時限目の講義を思い出してください。

#Step03オプション価格は高等数学

2時限目の最後にふれた「オプション」の価格理論について、より詳しく講義します。自分で計算ができるようになる必要はありません。基礎的な考え方だけを理解しましょう。

1)ノーベル賞学者が考案したオプションの方程式

オプション料の価格設定については、“デリバティブ理論へのプロローグ”として前の時間に少しだけふれました。その内容を覚えていますか?

1.いま原資産の価格はいくらか

2.将来、いくらで売買できる権利か

3.売買までの期間はどれくらいか

4.いまの金利はいくらか

5.現資産の価格は、将来どの程度の変動が予想されるか

の5項目がオプション料を決定する条件となるというものでした。実際には、この条件を複雑な算式で計算して、誰もが納得するオプション料が決められます。この算式は、有名な2人の数学者が考案したものとしてこの2人の名をとって、「ブラック・ショールズ式」と呼ばれます。直観的に考えると、相場の動きが激しい、もしくはオプションの残存期間が長いほどオプション料は高くなりそうですね。

2)「オプション」の価格理論とは?

実際にはオプション料は、高度な数学理論である「ブラック・ショールズ式」等を用いて求めます。資料5をクリックしてください。

資料-05

オプション価格理論

商品の価格変動が幾何ブラウン運動と呼ばれる確率モデルによって表されると仮定し、オプション料をこの価格に依存する関数と定義すると、このような価格式が導かれます。

「デリバティブ」の勉強も、このあたりから金融工学としての色合いが出てきます。極めて専門的ですので、これ以上は省略します。

3)デリバティブなんか、怖くない

金融工学としての「デリバティブ」に、少しだけふれた感想はいかがですか?わからなくても別にかまいません。私だって、完全に理解しているとはいいがたいのですから。

「オプション」に限らず、「デリバティブ」を実際のビジネスに使っていく場合は、基礎的な理屈の枠組みがわかっていれば十分です。数学理論ができなければダメということは一切ありません。ただ、市場の誰もが納得して取引する「デリバティブ」のルール、その考え方だけは理解してください。

理論の勉強は、ここまで。話を変えましょう。

「デリバティブ悪玉論」って、聞いたことがありませんか?

#Step04 デリバティブは善玉?悪玉?

投機目的に取り組んだ「デリバティブ」は、大きなリスクを抱え込みます。一方、企業のリスク管理に活用すれば、これほど有効なものはありません。デリバティブの多様化、拡大化に伴って受ける銀行側にもより高度なリスク管理技術が要求されます。ここに、銀行のコーポレートファイナンスの新しい姿があるのです。

1)デリバティブは本当に危険?

「デリバティブで数十億円の損失!」というニュースを時々耳にしますね。こんなニュースばかり知らされると「デリバティブ」は危険な手法と思いがちです。でも本当に「デリバティブ」は危険なんでしょうか?ここでくどいようですがもう一度「リスクヘッジ」と「リスクテイク」について復習しましょう。

企業の財務リスクには様々なものがありますが、なかでも多数の金融商品は価格の変動に影響を受けるという点において多くの市場リスク(マーケットリスク)を内包しています。企業財務に内包している市場リスクを減少させるような特性を持つデリバティブを取り組むことは「リスクヘッジ」であり安全な運営方法と言えます。資料6をクリックして下さい。

資料-06

リスクヘッジとは

一方、企業財務に内包している市場リスクを増大させるような特性を持つデリバティブを取り組むこと、あるいは全く新しい種類の市場リスクが発生するようなデリバティブを取り組むことは「リスクテイク」であり投機的な運営方法と言えるでしょう。資料7をクリックして下さい。

資料-07

リスクテイクとは

デリバティブで喫損したと報じられた事例は、元本や金利に数倍の掛け目を乗じて金利の変動による影響を増大させた取引を行っていたり、あるいは原資産は金利であるにもかかわらず為替や株の変動に影響を受けるといった新たなリスクを発生させる取引を行っていたケースが多く、実は「リスクテイク」でした。こうしたケースのみが誇張された結果生まれたのが「デリバティブは危険だ」といった悪玉イメージです。これは一方的な受け止められ方に過ぎません。

今回のゼミでは、コーポレートファイナンスの立場からのデリバティブを扱ってきました。しかし世の中のデリバティブはヘッジファンドに代表されるように、少ない元手を何十倍にも膨らませ、独自の理論で運用収益を最大化しようとする使われ方が大きな比重をしめていることも確かです。現にデリバティブの市場規模は原資産規模の数十倍にも膨れ上がっており、自ら投機に関わっていなくても、市場の動きは否応なしに原資産価格そのものや一国の経済全体にも少なからぬ影響を及ぼすようになっています。

もはや、スワップやオプションは一部の人しかわからない新しいものではなく、また好き嫌いにかかわらず、デリバティブに対する正しい理解なくして金融は語れなくなっています。言い換えればわが国金融の再生と、高齢化社会を目前にした最大貯蓄国としての運用力強化のためにも、デリバティブ技術はもはや必要不可欠な代物なのです。

2)「デリバティブ」を用いた新しいコーポレートファイナンス、ALM

1時限目では、「デリバティブ」をリスクヘッジの目的で取り組んだ堅実な企業の事例も紹介しました。あれこそが、コーポレートファイナンスにおける「デリバティブ」の本質、本来の姿です。「デリバティブ」を効果的に用いれば、為替や金利の変動リスクを抱えている企業がそのリスクを回避し、収益を安定化させることができます。こうした金融環境の変化にともなって生じる各種のリスクを回避しながら、資金の運用収益と調達コストをトータルに管理することをALM(Asset Liability Management)と呼びます。ALMは、銀行が企業に対して提供できる新しいサービスとして、今後コーポレートファイナンスの大きな柱となっていきます。

3)「デリバティブ」が、多様なリスクを飼いならす

「デリバティブ」を駆使したALMについて、少し具体的に考えてみましょう。一つの金融商品には、さまざまな種類のリスクが含まれています。たとえば社債なら、金利変動リスク(市場リスク)はもちろん、会社が倒産してお金が返ってこない信用リスク、税制が変更になり予想より多くの税金を支払わなければならない税務リスクなど、さまざまなリスクを抱えているのです。

元来、銀行は「決済機能」と「金融仲介機能」という2つの大きな役割を担ってきました。このうち「金融仲介機能」では資金拠出、信用リスク判断、市場リスク、事務管理等々をすべて丸かかえで取り組む「間接金融」のみがサービス提供の手段であった時代から今や大きく変わろうとしています。そのキーワードは「アンバンドリング=Unbundling」。

即ち、金融仲介機能を細分化し、多くの市場参加者が得意分野、専門分野でその役割を分化していく動きです。例えば「デリバティブ」は市場リスクのみを抽出して市場に仲介する取引です。デリバティブに限らず、最近の新しいファイナンス手法は少なからずこの機能分化を市場全体としてより効率的に担っていくところに共通点があるように見受けられます。資料8をクリックして下さい。

資料-08

リスクの分離(Unbundling)

市場リスクを計量化することから、リスク管理は始まります。計量化したリスクをデリバティブを用いてヘッジ(回避)することで、金融商品から金利・為替変動リスクといった市場リスクだけをとり除くことができます。しかも、原商品の売買は行われないため、企業のバランスシート(資産と負債の関わり)に大きな影響を与えることもありません。

このようなメリットをもった「デリバティブ」は、21世紀のコーポレートファイナンス、ALMにとって不可欠のツールです。また、市場が納得するルールを設定できれば、新しいデリバティブ商品の創造も可能です。

さて、みなさんは「デリバティブ」に向くと思いますか? 最後に、これからの「デリバティブ」の可能性、そしてデリバティブ業務に求められる能力について考えてみます。

#Step05 どうなる、これからのデリバティブ

「デリバティブ」ゼミの最後に、「デリバティブ」がこれからの銀行業に与える影響と、この業務に求められる人材像を考えてみましょう。

1)次々と誕生する、新デリバティブ

市場の誰もが納得する権利取引のルール。それさえ設定できれば、実にさまざまなタイプのデリバティブ商品の開発が可能です。すでにこのような新しいデリバティブ商品が取引され始めています。資料9をクリックしてください。

資料-09

新たなデリバティブ

金融商品をとりまく主要なリスクは、理論的にはほとんど「デリバティブ」でヘッジすることが可能です。最近では株価変動、原油などの商品価格変動といった市場リスクを扱うエクイティデリバディブ、コモディティデリバティブに加え、信用リスクを取り扱うクレジットデリバティブも取引されるようになってきました。

さらに、天変地異や予想外の天候(異常気象)による企業の収入減をヘッジする手法として「天候デリバティブ(ウエザー・デリバティブ)」が米国で登場し、近年日本においても急速に普及しています。

みなさんもよくご存知のある遊園地を運営する企業が以前こんな社債を発行して話題になりました。遊園地からある範囲内で一定規模以上の地震が発生した場合、その企業は元本の一部または全額を返済しなくてもよい、という社債です。資料10をクリックしてください。

資料-10

新たなデリバティブ

この社債を購入した投資家は大地震が起きた場合には元本を失うリスクがありますが大地震が発生しなければ高い運用利回りを確保できるのです。その企業はオプション料をクーポン(社債金利)という形で支払うことで、大地震後の開店休業状態の際に不足する営業収入(入場料)を補うことができるのです。つまりその企業が発行した社債は「地震オプション」を内包したいわゆる“地震リスクヘッジ債”だったのです。

また、異常気象が企業の営業収入に大きく影響を与えることがあります。例えば、長雨による冷夏で、エアコン、ビール、アイスクリームといった夏に売上を伸ばすものが売れなかったとか、暖冬で暖房器具やコートの売上が落ち込んだ、とか・・・。企業は自助努力ではなんともしがたい自然現象をヘッジすることはできないのでしょうか?

スポーツ用品チェーン店を展開するある企業が損害保険会社と締結した「積雪量オプション」は実質的に国内で取引された「天候デリバティブ(ウエザー・デリバティブ)」の第一号と言われています。このスポーツ店はスキー用品が主力で雪のあるなしに売上が大きく左右され、過去に暖冬の影響で業績の下方修正を余儀なくされたこともあり、天候リスクをヘッジする手法を模索していました。資料11をクリックしてください。当行でも、例えば夏季には多雨・冷夏、冬季には少雪・暖冬といったリスクをヘッジするような「天候デリバティブ(ウエザー・デリバティブ)」商品を販売しており、小売業のみならず、レジャー関連、土木工事等々幅広く、多くのお客さまに利用して頂いています。

資料-11

「積雪量オプション」の仕組み

締結した「積雪量オプション」は、損害保険会社にオプション料を支払うことにより一日の積雪量が一定水準以下である日数に応じて多額の現金を受け取ることができるというもので、中部地方を地盤としていることから積雪量としてはスキー場に近い野沢、菅平、奥美濃の観測所のデータを採用したようです。

また最近では、エアコンメーカーが冷夏だった場合にエアコンを購入したお客さまに商品券でキャッシュバックしたり、温泉地でホテルを経営する企業が雨が降った場合に宿泊料を割り引くなど、キャンペーン(販売促進)やサービスに天候デリバティブを利用するケースも見られるようになりました。

このように企業のニーズに適った「天候デリバティブ(ウエザー・デリバティブ)」の普及は今後も加速することが予想され、もはや日本でも悪天候を業績の落ち込みの言い訳とできない時代が到来したと言えます。

2)「デリバティブ」が、金融機関の競争力となる

すでに勉強したように、「デリバティブ」はこれからのコーポレートファイナンスの大きな柱、ALMによるリスク管理の主要な手段となるものです。企業が抱えるリスクは多様化・複雑化しており、企業に対してリスク管理サービスを提供する金融機関には、より高度なリスクヘッジ技術が求められます。

例えば、企業がリスクヘッジのためにオプションを購入するとします。この場合買い手は企業ですがオプションの売り手は銀行です。何十何百ものオプションを売ることになりますから銀行は大変大きなリスクを抱えることになります。また何百ものスワップを企業のニーズに合わせて受け入れる訳ですから、自らがどういうリスクにさらされているのか次第につかみきれなくなっていきます。

これでは、投機目的のデリバティブと大きな違いはありません。

そこで銀行は、日々トータルの価値を洗い直し、別のデリバティブでヘッジしたり、原資産そのものの売買を通じて、

1.今自らがどのようなリスクにさらされているか

2.原資産の価格の1単位の変化が自らのリスクにどの程度の影響を及ぼすか

3.一定の確率のもとで予想される最大のロス金額はいくらか

等々多くの視点から高度なリスク管理が実施されています。

こうした流れの中で、デリバティブ業務は、質、量ともにますます拡大していくでしょう。「デリバティブ」を駆使してよりすぐれたサービスを開発し、提供し、その上で、的確なリスク管理ができることが、他の金融機関との差異化につながるのです。

金融機関の商品開発力とは

1.企業のニーズを一早く察知し、最適なソリューションを企画できるマーケティング力。

2.高度なリスク管理による、リスク量の的確な把握と、正しい原価計算に基づき必要資本の最有効利用が図れる収益、管理能力。

の両軸が噛み合って初めて本物といえます。

私が勤務する金融商品営業部では、こうした認識のもと、常に新たなデリバティブ商品の可能性を探っています。

3)デリバティブ業務に文系・理系の差はありません

では、こうしたデリバティブ業務に携わるためには、どんな能力が必要でしょうか。資料12をクリックしてください。

資料-12

求められる能力

このように、デリバティブ業務には多様な能力・知識が求められます。もちろん、一人の人間がこれらすべてに通じるスーパーマンである必要はありません。「デリバティブ」を担当する部署には、さまざまなタイプの人材が必要です。価格理論を駆使して計算する人、新しいデリバティブ商品のアイデアをつくる人、企業財務を診断して的確なリスクヘッジプランをつくる人…。こうした人材が結集して、はじめて「デリバティブ」を駆使したコーポレートファイナンスがなりたつのです。文系・理系をはじめ、学生時代の専門はこの業務ではあまり関係ありません。

ただ、私の経験から考えると、デリバティブ業務に求められる資質というものはあるような気がします。たとえば、

●自分の専門にこだわらず、さまざまな新しい知識を貪欲に吸収しようとする好奇心・チャレンジ精神。

●新しい取引手法の開発につながる、ちょっとしたアイデアにこだわる粘り。

●既存の枠組みにとらわれない発想力・創造力。

●相手(企業)の悩み(ニーズ)に早く気づき、その問題を解決する能力や提案力。

これらは、この業務に不可欠な資質といえるでしょう。でも、心配はいりません。何ごとも経験の積み重ねで築かれるものなのですから。

これで、「デリバティブ」の講義はすべて終了です。

最後に、私からの終了メッセージをお送りします。

まとめ

「デリバティブ」ゼミの受講終了、おめでとう。よくがんばりましたね。

最後に、長くこの業務に携わる立場からデリバティブ・セールスの醍醐味についてお話します。それは「デリバティブ・セールスの醍醐味は、提案力・商品開発力のみが評価される」と言っても過言ではない、ということです。例えば、従来の伝統的な銀行業務では取引地位(例えばメインであるとか、準メインであるとか)が重視される傾向が強いのですが、デリバティブについては全く関係ありません。提案内容が評価されれば取引地位に拘わらずメイン銀行に先駆けて取引を行う(つまり出し抜く)、ということも日常茶飯事です(でも裏を返せば逆もありうるので、メインだからと言ってボヤっとしてるといつの間にか他の銀行で大量のデリバティブを取り組んでいた、ということもありますから注意が必要です)。また、3時限目で紹介したとおり新しいデリバティブ取引が続々と登場していますが、10年前に異常気象をデリバティブでヘッジができるということを誰が想像したでしょうか。企業のニーズをキャッチしそれに適う商品を開発できるかどうかが評価の対象であることは言うまでもありません。10年後には今では考えもつかないものがデリバティブとして取引されているかもしれません。

「デリバティブの世界」はいかがでしたか?

このゼミを通じて少しでもデリバティブのイメージを掴むことができ、興味をもって頂ければ幸いだと思っています。また、他のゼミでも銀行の新たな業務に関わる知識や最新動向を詳しく講義しています。是非、受講をおすすめします。

金融商品営業部 工藤 顕