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1時限目 入門講座

デリバティブの基本概念

この講義は、入門編・初級編・中級編の三部で構成されます。

1時限目の入門編では、まず身近な視点からデリバティブの基本概念をとらえ、さらに基本的なデリバティブの手法について勉強します。ちなみに、2時限目の初級編ではコーポレートファイナンスの視点から見た代表的なデリバティブを、3時限目の中級編では金融工学から見たデリバティブ理論、およびリスク管理とデリバティブ業務の関わりなどについて勉強します。なるべくわかりやすく講義します。ゆっくり、しっかり理解してください。

#Step01まず、「デリバティブ」をイメージしよう

難解と思われがちな「デリバティブ」。まず、その心の壁を取り払いましょう。身近な存在に置き換えてみると、「デリバティブ」は意外とイメージしやすいものです。

1)「デリバティブ」って、何だろう?

「デリバティブ」について、みなさんはどんなイメージを持っていますか?「何だかとても難しいもの」「大きな損失事件では必ず登場する」「世界に数十人しか本当に理解している人はいないらしい」…などなど、かなり難解な印象が返ってきそうです。でも、「デリバティブ」とは、考えようによってはとても身近なもの。たとえば、20年の住宅ローンがどうしてあのような低金利で固定化できるのかなど、私た ちの生活に「デリバティブ」の考え方は密着しているのです。

それでは、試しに、「デリバティブ=Derivative」を辞書でひいてみましょう。「派生的な」「派生物」とあります。すなわち、もととなる何か(「原資産」といいます)から派生して作り出され、原資産の価格にその価値が依存するような金融商品を「デリバティブ」と呼びます。でも、これでは何のことだかわかりませんね。

2)「デリバティブ=コーヒーチケット」と考えよう

もう少しわかりやすく「デリバティブ」をイメージするために、たとえば1枚100円のコーヒーチケットを考えてみましょう。資料1をクリックしてください。

資料-01

デリバティブ=コーヒーチケット?

ここでは、コーヒーの値段が毎日変わるものと仮定します。今日コーヒーチケットを100円で買えば、明日コーヒーが120円になっても、100円のコーヒーチケットと120円のコーヒーを交換することができます。すなわち、コーヒー(=原資産)の値段がどう変わっても、いつでも一杯のコーヒーと交換できるチケット(=派生商品)、それが「デリバティブ」商品です。

言い換えれば、将来コーヒーがいくらになっても今日の100円で確定させる商品の取引。この考え方が、「デリバティブ」の基本中の基本です。ところで、このコーヒーチケットは、今いくらで売買すべきでしょう?コーヒーの値段が上がり続けるなら、いつも100円では済みませんね。

3)コーヒーチケットを、いくらで売買するか?

ここで、資料2をクリックしてください。

世の中の多様なニーズに対応したルールを作り、誰もが納得する合理的な値付け(プライシング)を行う技術、それが「デリバティブ技術」です。そして、みんなが同じルールの中で参加し、そうしてでき上がった派生的商品の売買をしあうのが「デリバティブ取引」。何となくイメージがつかめますか?

資料-02

コーヒーチケットの価格

「コーヒーの値段」=「コーヒーチケットの価値」と考えられます。コーヒーの値段が上がればコーヒーチケットの価値も上昇します。コーヒーチケットの売買にいろんな条件を付ければ、この損益関係も変化します。チケットの今の値段(価値)は、こうした条件を考慮して独自に値付け(プライシング)されます。

それでは、実際の「デリバティブ商品」で、つかんだイメージを掘り下げましょう。

#Step02いちばんわかりやすい「デリバティブ」

銀行業務の中に昔から存在する「為替予約」は、デリバティブのイメージをつかむためには格好の題材です。

1)実は、昔からあったデリバティブ

「デリバティブ」というと、最先端の金融テクノロジーと思われがちですが、実は日本でも江戸時代から広い意味のデリバティブ取引が行われてきました。大阪は堂島の「米の先物取引」がそれです。

この取引では、あらかじめ決められた価格で、将来のある時点で米を売買する契約を結びます。決められた価格より米が値上がりすれば得。値下がりすれば損です。ここでも、米という商品自体ではなく、米を決められた価格で売買する権利と義務が取引されたのです。

これから勉強する「為替予約」も、比較的昔からあった「デリバティブ」の概念を用いた商品の一つといえます。

2)「為替予約」は、最も基本的なデリバティブ

「為替予約」とは、将来の決まった期日にある通貨を決まった値段で買う、もしくは売る予約のことです。

「為替予約」は、為替レートという原資産に対する幅広い意味での「デリバティブ」です。銀行業務の中では、かなり以前からある商品ですね。

ここで、資料3をクリックしてください。

資料-03

デリバティブ(1):為替予約

続いて、資料4をクリックしてください。

どうです?原理はコーヒーチケットと同じでしょう。

資料-04

為替予約の価値

一月後の為替レートが円安(たとえば1ドル=130円)になれば、現在の相場より安い110円で1ドルを買える、すなわち価値は20円のプラスとなります。もし円高(たとえば1ドル=90円)になれば、相場より高い110円で1ドルを買わなければならない、すなわち価値は20円のマイナスです。

3)為替予約の2つの顔

それでは、「為替予約」は、どんな場合に使われるのでしょうか。大きく2つの使われ方があります。

“投機目的”の為替予約

相場の動向を予測し、値上がりすると見込んだ通貨を安い値段で予約することで収益を得ようとする場合です。これを「投機」といいます。

“ヘッジ目的”の為替予約

将来の価格変動を避けるために、現時点で損益を確定するような取引を「ヘッジ取引」といいます。将来、必要な通貨が大きく値上がりするリスクを回避するために、現時点で妥当な価格で買う権利を予約してしまうわけです。

投機目的とヘッジ目的では、「為替予約」はどんな顔を見せるのか?

次に、2つの商社に登場してもらいましょう。

#Step03よくばりな商社と堅実な商社の話

最も基本的な「デリバティブ」である「為替予約」。その本来の役割は、投機ではなくリスクの回避にあります。ここでは、2つの商社のケースをもとに、「デリバティブ」の本質にふれてみましょう。

1)投機目的の商社が見る天国と地獄

投機目的とヘッジ目的では、「為替予約」はどんな働きをするか。ここでは、わかりやすくイメージするため2つの架空の商社の事例を考えてみます。まず、投機目的で1ドルを110円で為替予約した、商社Aの事例です。資料5をクリックしてください。

資料-05

「投機目的」の為替予約

商社Aには、一月後、どんな運命が待っているか? 2つのケースが有り得ます。まず、資料6をクリックしてください。

資料-06

「投機目的」+円安

もし1ドル=130円になれば、為替予約を用いて1ドルを110円で買った後、このドルをすぐに130円で売ることにより、20円の儲けを得ることができます。

次に、資料7をクリックしてください。

資料-07

「投機目的」+円高

1ドル=90円になった場合には、為替予約のために現在の相場より高い110円でドルを買わなければならず、20円の損をしたことになります。

円が一月後、高くなるか安くなるかは、明確にはわかりません。投機で儲けることを目的に為替予約した商社Aは、逆に損失を受けるリスクも同時に予約しているのです。

2)上手にリスクを回避した堅実商社

次に、ヘッジ目的のために為替予約を利用した商社Bの事例を考えてみましょう。商社Bはこんな取引を行いました。資料8をクリックしてください。

資料-08

「ヘッジ目的」の為替予約

一月後に輸入代金の支払いのためにドルが必要となる輸入貿易商社Bは、110円でドルを買う為替予約をしました。このように、将来の価格変動を避けるために現時点で損益を確定するような取引を「ヘッジ取引」といいます。

次に資料9をクリックしてください。商社Bの思惑は当たったようです。

資料-09

「ヘッジ目的」+円安

一月後に、1ドルは130円の円安(ドル高)となりました。もし為替予約していなければ1ドルを130円で買わなければならず、原価超過になっていましたが、為替予約のおかげでこれを回避することができました。

それでは、円高になった場合にはどうでしょう。資料10をクリックしてください。

資料-10

「ヘッジ目的」+円高

一月後に、1ドルは90円の円高(ドル安)となりました。現在の相場より高い1ドル=110円でドルを購入しなければなりませんが、この値段なら国内で商品を販売すれば黒字となるので大きな問題とはなりません。

堅実な商社Bは、「為替予約」を利用し、ドルの価格変動にともなうリスクを最小限に抑えることができました。この場合、1ドルが90円になった場合の損失も、あらかじめコストの中に組み込まれています。

3)「為替予約」の本質は、リスクヘッジ

「為替予約」は、将来の時点で、為替をある価格で買う“約束”です。「為替予約」を結んだ時点では、元手、つまり将来に為替を予約した価格で買うための資金を用意する必要はありません。いいかえれば、お互いが合意すれば資金がゼロでも数億ドルにのぼる巨額な取引ができる仕組みなのです。事例としてあげた投機目的の商社Aのケースでは、円高の場合には損失の総額をゼロから支払わなければなりません。 一方、ヘッジ目的の商社Bの場合には、あらかじめ用意された予算の中で損失が吸収できます。

「為替予約」に限らず、デリバディブ取引で巨額の損失を被る企業は、投機目的の場合がほとんどです。

為替変動リスクをヘッジ(回避)するための仕組み、それが「為替予約」の本来の役割といえます。

では、ここで質問です。

ヘッジ目的の商社Bは、さらに、円高のメリットを活用できる新たな「デリバティブ」に取り組みました。どんな仕組みが考えられるでしょうか?

その答は、次で明らかにします。

#Step04オプションって、何だろう?

「為替予約」について、理解できましたか?次に、より本格的なデリバティブ商品である「オプション」の基本概念を講義します。先程の質問の解答から勉強をスタートします。

1)堅実な商社Bの悩みとは?

ひき続き、堅実な輸入貿易商社Bの事例をもとに講義をすすめます。ヘッジ目的で「為替予約」を活用した商社Bですが、同時に大きな悩みもありました。それは、「為替予約」をしている限り、1ドルが90円になっても110円で買わなければならないこと。これでは、1ドルを90円で購入できる円高メリットが受けられません。そこで商社Bが新たに取り組んだ「デリバティブ」が「オプション」です。資料11をクリックしてください。

資料-11

デリバティブ②:オプション

「為替予約」は、もし相場が自分にとって不利な方向に動いたとしても、予約内容を実行しなければなりません。しかし「オプション」では最初に少額の手数料を払う代わりに、その内容が不利になる場合にはその約束は放棄することができます。掛け捨て保険とイメージは似ていますね。

「オプション=Option」を辞書でひくと、「選択」「選択権」とあります。つまり、「オプション」とは将来、原資産を決まった値段で買う、または売ることができる権利であり、その権利を行使するか放棄するかは「オプション」の購入者が自由に決めることができます。また、買う権利のことをコール、売る権利のことをプットと呼びます。「オプション」は、「為替予約」よりも一歩進んだ、より本格的な「デリバディブ」商品です。

2)「オプション」は古代ギリシャ生まれ

かつて、古代ギリシャのターレスは、オリーブを収穫するための掘削機を貸す権利を売買して一もうけしたと言われています。オリーブが豊作となると掘削機の賃貸料は上がり、不作となると賃貸料は安くなります。そこで、あらかじめ掘削機を貸す権利を業者から買い取り、賃貸料が高い年だけその権利を行使する、「オプション」の原型が行われていたのです。また、近代のオランダで行われたチューリップの球根相場でも同様の手法がとられました。金融最先端技術といわれる「デリバディブ」も、実は人類の歴史にとけこんだ取引手法なのです。

3)“いいとこどり”する権利、それが「オプション」

自分の都合のいい時だけ権利を行使する権利、それが「オプション」です。事例であげた商社Bの場合でも、1ドルに付き10円のオプション料を払うことで、ドルが高く動いた時には権利を行使してドルを安く買い、ドルが安くなれば権利を放棄してより有利な価格でドルを買うことができます。つまり、“いいとこどり”をする権利がオプションであり、“いいとこどり”の価値を有料で取引するのがオプション取引だとイメージしてください。

では、ここで質問です。

1ドルが120円になった場合、商社Bは1ドルを110円で買う権利を行使したほうが得でしょうか?放棄したほうが得でしょうか?

答は、次に明らかにします。

#Step05オプションの本質は、保険なのだ

「為替予約」について、理解できましたか?次に、より本格的なデリバティブ商品である「オプション」の基本概念を講義します。先程の質問の解答から勉強をスタートします。

1)オプションと円安、円高

1ドルが120円になった場合、1ドルを110円で買う10円の「オプション」を行使するか、放棄するか?質問の答はわかりましたか。それでは、買う権利=「コールオプション」に的を絞って、円高と円安それぞれの場合をシミュレートし、質問の答を考えてみましょう。まず円安(ドル高)の場合です。資料12をクリックしてください。

資料-12

「コールオプション」+円安

一月後に1ドルを110円で買う権利、すなわち110円のドルコールオプションを10円で買った場合を考えてみます。一月後に1ドルが130円になっていた場合には、このオプションを行使して1ドルを110円で買うことにより、オプション料を含めて1ドルを120円で購入することになります。

次に円高(ドル安)の場合です。資料13をクリックしましょう。

資料-13

「コールオプション」+円高

一月後に1ドルが90円になった場合はどうでしょうか。この場合はオプションを放棄して現在の為替レート、1ドル=90円でドルを購入することにより、オプション料を含めると1ドルを100円で購入したことになります。

2)円安なら行使、円高では放棄

ここで資料14をクリックしてください。

この質問で設定した1ドル=120円の相場では、「オプション」を行使すると10円のオプション料を含めて120円で1ドルを買うことになります。とんとんですね。「オプション」を放棄した場合には、現時点での為替価格120円に10円のオプション料を含め、1ドルに130円を支払わなければなりません。つまり、質問にあげた条件下では、オプションを行使したほうが得です。

資料-14

コールオプションの価値

つまり、一月後に1ドルが110円より高い(円安)の時は「オプション」を行使しますが、それより安い(円高)の時は「オプション」を放棄したほうが得です。放棄した場合でも、オプション料の10円は支払わなければなりません。

3)オプション料は、円安に対する“保険料”

この事例では、円高によって「オプション」を放棄した場合、オプション料の10円は払い損になりました。その代わり、円安でドルの値が大きく上昇しても、オプションを行使すれば1ドルをあらかじめ予約した値段で買うことができます。つまり、オプション料とは、円安に対する“保険料”といえます。では、万人が認める1ドル10円というオプション料金は、どうやって決められるのでしょうか?この追求が、実はデリバティブ理論を究めていくための入り口なのです。

さて、ここで、次の時間まで考えておいてほしい課題を出します。

課題1.

いま、1ドルの為替相場は110円だと仮定します。

1カ月後に1ドルを110円で買うオプション料、10円。

1カ月後に1ドルを100円で買うオプション料、10円。

1カ月後に1ドルを120円で買うオプション料、10円。

3つの10円のうち、どれがいちばんオプション料としてお得でしょう?

この課題が、デリバティブ理論への入り口。解答は、2時限目で明らかにします。

まとめ

これで、1時限目の講義は終了です。

「デリバティブ」とは何かについて、イメージできましたか?あまり難しく考えることはありません。その基本概念はコーヒーチケットなのですから(笑)。次の時間では、実際のコーポレートファイナンス業務の中でもっとも活用される、「スワップ」を中心に講義をすすめます。2時限目も、がんばって受講してください。

それでは、課題を忘れずに考えておいてくださいね。

課題1.

いま、1ドルの為替相場は110円だと仮定します。

1カ月後に1ドルを110円で買うオプション料、10円。

1カ月後に1ドルを100円で買うオプション料、10円。

1カ月後に1ドルを120円で買うオプション料、10円。

3つの10円のうち、どれがいちばんオプション料としてお得でしょう?