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3時限目 ネクストステージ

あなたの時代の「企業の育成支援講座」

がんばって受講を続けていますね。2時限目の講義はいかがでしたか?また、課題2も考えてきてくれましたよね。私の講義も今回で最後。あなたが銀行員として活躍する、これからの時代に求められる企業の育成支援について、正しい理解を深めてください。

3時限目では、ベンチャー発掘・育成と株式公開支援が融合した、これからの時代の企業の育成支援について勉強しましょう。このゼミで始めて公開する第一線の銀行員の実践事例をはじめ、見逃せない内容が盛り沢山です。新興市場の誕生により、大きく変化した企業の育成支援環境についてしっかり理解し、この分野のやりがいをしっかりと心に留めてくれたら嬉しいです。 いよいよこの講義もラストスパート!最後までお付き合いくださいね。

#Step01大きく変化した企業の育成支援環境

新興市場の誕生と歩調をあわせて、企業の育成支援環境は大きく変化しています。ここでは、リスクをともなう最新の市場動向を概観しながら、これからの企業の育成支援業務に不可欠な視点について学びます。

1)35年から8年になった企業の“成人年齢”

2時限目のSTEP1で、企業が株式公開するまでの年数に言及したのを覚えていますか。ジャスダック上場までが平均28年、取引所上場までが平均38年というものでした。しかし、こうした企業の“成人年齢”は、いまや大きく縮まっています。「マザーズ」などの新興市場の場合なら、上場までの平均年数は8年。従来の企業の成長曲線モデルならまだ成長初期、いわばベンチャーにあたる時期の企業が株式公開を図る時代になったのです。

こうした市場環境の変化は、銀行の企業の育成支援業務にも大きな影響を与えています。資料1をクリックしてください。

資料-01

「ベンチャー期」と「株式公開期」の融合

企業の成長初期における「ベンチャー期」と、成長後期における「株式公開期」の2つのステージが、最新の市場環境では融合しつつあります。従来、株式公開を図る企業は安定的に成長しているケースが大半であり、投資傾向はローリスク/ローリターンでした。しかし、「ベンチャー期」にあたる企業が株式公開を図る今、投資傾向もハイスリスク/ハイリターンに変わりつつあります。

こうした市場環境の中で、これからの時代の企業の育成支援では、「ベンチャー支援」と「株式公開支援」が一つになっていくでしょう。預金者から預かった資金を安定して運用する責任を持つ銀行には、支援する企業のリスクをあらかじめ慎重に見極める必要があります。

2)リスクマネーの供給とネットベンチャーブーム

こうした環境の変化には、どのような背景があったのでしょうか。これには大きく分けて2つあると私は考えています。一つは「個人金融資産の流動化」、そしてもう一つは「起業家意識の高まり」です。

みなさんもよくご存知の日本版ビッグバン。おさらいをしますと、このビッグバンの内容は金融の規制緩和と自由化。そして狙いは個人金融資産をはじめとした様々な運用資産が成長産業に対し効率的に供給されることでした。長らく続く低金利時代とこのビッグバンの進展により、着実に個人資産は従来の預金を中心としたローリスク/ローリターン型の運用から、ハイリスク/ハイリターン型の運用へと選好を移しつつあり、投資信託などを通じ新興市場などへ流れるリスクマネーの供給原資となったのです。

一方、個人の就業意識も変化しています。バブルの崩壊以降、長引く不況の中、大企業・安定志向が薄れ、自ら新しい事業を起こそうとする起業家精神の高揚が見られるようになりました。おりからのIT革命の進展もあって、インターネットを使ったビジネス、いわゆるネットベンチャーを興そうとしている人たちが増えてきたことはみなさんもよくご存知でしょう。

インターネットはビジネスを展開する上で従来の商慣行を覆す強力な武器となります。まったく新しい市場も創出します。アイデアと行動力、そして圧倒的なスピード(変化対応力、意思決定力)を持つベンチャー企業が活躍するフィールドがどんどん増えており、チャレンジ精神あふれる起業家たちが争うようにベンチャー企業を立ちあげているのです。

3)ネットバブルの崩壊に学ぶ

さて、1999年から2000年前半にかけては、こうしたネットベンチャーブームが席捲しました。ハイリスク/ハイリターンの資金運用を図る投資家たちも、その将来性や成長性に目をつけ積極的に投資を行ない、ネット関連企業の株価が高騰する、いわゆるネットバブルが発生しました。インターネットを使ったB to B、B toCのビジネスは初期投資が少なくて済むため、成長するチャンスが大きいと判断されたのです。

しかし、2000年春以降、ネットベンチャーの一部の企業で、追加的な設備投資負担により当初期待していたほどの収益が上がらない実態が判明しました。その結果、ネット関連企業全般にわたって、期待先行の部分がはげ落ちるように株価は急落しました。これがいわゆるネットバブルの崩壊であり、せっかく芽生えた日本の新産業創出の芽をつぶす怖れさえある事態でした。

一方で、これは私たちにとっても教訓となりました。淘汰が進んだネットベンチャーの中でも、相対的に高水準の株価を保っているネット関連企業が存在していたのです。確かな競争力を備えるビジネスモデルをもつ企業ほど、ネットバブル崩壊の影響は比較的軽微であり、ネットビジネスを目利きする上でも、たいへん勉強になりました。

ハイリスク/ハイリターン環境の中で行なわれるこれからの企業の育成支援には、企業のビジネスモデルを見極めること、いわば事業の“目利き”が何より重要なスキルとなるのです。

次のSTEPでは、課題2の解答を通して、事業の“目利き”について勉強しましょう。

#Step02それでは、企業の“目利き”をしてみよう

ビジネスモデルを評価することで、その企業の将来の成長力を見極める。それが事業の“目利き”です。これからの企業の育成支援業務にもっとも重要なこのスキルについて、課題2の解答を通して学びましょう。

1)独自技術と独創的サービスのどちらを評価するか?

2時限目の最後に出題した、課題2の解答を考えておいてくれましたか?あの課題は、実は単純化されたモデルを通してみなさんに事業の“目利き”をしてもらうためのものです。こんな課題でした

【課題2】

ここに、2つの新興企業があります。

A社 次世代携帯電話の積層セラミックコンデンサを開発・製造

(問題点:多額の研究開発投資が必要)

B社 ローコストオペレーションを可能とした中古書籍の専門店チェーンを展開

(問題点:ビジネスモデルとしては単純で模倣されやすい)

あなたが企業の育成支援担当者なら、より将来性のある取引先としてどちらの企業を支援しますか?その理由も含めて考えてください。なお、A社とB社の事業は、どちらも現時点では競合企業がないものと仮定します。

答を出した人は、資料2をクリックしてください。

資料-02

課題2の解答

A社の次世代携帯電話の積層セラミックコンデンサは現時点で競合企業をもたない独自技術であり、次世代携帯電話というこれからのマーケット性も備えています。他社が追随するためには時間をかけた技術開発が必要であり、A社はこの市場の中で大きな優位性を持つことができると考えられます。多額の初期投資も順調にマーケットが拡大すれば回収できる可能性は高いと思われます。一方、B社の中古書籍の専門店チェーンも、古本屋という昔ながらの商売をチェーン展開などで新しい業態に変え、中古書籍市場を開拓するものです。しかしB社を支援する場合は、

(1) 中古書籍という商品の特殊性から、マーケットの伸びに限界が予想されること

(2) 模倣されやすいビジネスモデルであること

(3) 以上により今後他社との競争激化が予想されること、

に注意する必要があります。B社が成功した場合でも事業の陳腐化は早いペースで訪れるため、今後さらなる成長を遂げていくためには積極的に新規出店を継続していく必要があると思われます。

もちろん、これだけで判断するのは危険ですが、以上のような点を踏まえれば現時点での将来性はA社のほうが上といえます。

どうでした?あなたはどちらの企業が将来有望と判断しましたか?

2)成長につながるビジネスモデルを見極める

1時限目で学んだベンチャーの2つのタイプで分類すれば、A社は技術開発型ベンチャー、B社はニュービジネス型ベンチャーです。現在は、排他性をもった技術開発型ベンチャーのビジネスモデルの評価が高く、陳腐化しやすいニュービジネス型ベンチャーの評価を上回る傾向があります。A社とB社の予想成長モデルを考えれば、たとえばこんな具合でしょう。資料3をクリックしてください。

資料-03

A社とB社の予測成長モデルイメージ

独創的技術をもつA社は急成長し、他社の技術が追いつく数年後には新興市場で株式を公開。そこで得た資金をもとに新たな技術を開発する、成長のスパイラルに入ることが予測されます。一方、B社の事業も当初は好調ですが、すぐに競合企業が登場し、事業収益は頭打ちになります。その前に違う種類の独創的ビジネスを考案しなければ、将来的に大きな成長は困難です。

A社のような技術開発に裏打ちされたベンチャーとして、現在は新エネルギー、省エネルギー、リサイクルなどの関連企業が注目されています。しかし、こうした独創的技術の評価は難しく、大学などの研究機関とタイアップして評価するケースも見られます。また、B社のような陳腐化しやすいビジネスモデルであっても、経営者がそれを見越して“次の手”を考えている場合には評価が異なります。したがって、技術開発型ベンチャーが将来性があり、ニュービジネス型ベンチャーは劣っているといった単純化はできません。事業そのものの将来性に加え、経営者の先見性や経営ビジョンも企業の育成支援の重要な評価基準となります。事業だけでなく、経営者のアタマの中まで覗くのが、“目利き”なのです。

3)これからの成長業種のベンチャーを支援する方法

前にも触れましたが、成長業種といわれるナノテクノロジー・材料、医療・バイオテクノロジー、情報関連・IT、新エネルギー、省エネルギー、リサイクル、製造技術、コンテンツといった業種におけるベンチャーの誕生も、今後大いに期待されます。しかしながら、これらの業種のうちITやバイオ技術などにおいては、必ずしも銀行の調査ノウハウだけでは事業の“目利き”ができなくなっています。

そのため、今後の支援の方法として、銀行がその業種の専門家と直接組むといった動きが出てきました。資料4をクリックしてください。

資料-04

これからの成長業種のベンチャーを支援する方法

たとえば、次世代を展望する環境やバイオなどの技術に関連するベンチャーの場合、TLOなどの専門研究機関や業界大手企業などと銀行が共同で投資ファンドを組成し、より連携を密接に保ちつつ互いに役割を分担していくような方法です。業界大手企業や銀行は資金出資、ベンチャーキャピタルがファンドを組成、研究機関が技術評価をそれぞれ担当します。ベンチャーキャピタルが投資を行った後は、主に銀行やベンチャーキャピタルが経営面における支援を行ない、業界大手企業は事業化における技術面の指導や営業協力を行なうような方法です。

なお、今後はこうしたベンチャーファンドの組成やこれまでの投資ノウハウを活かし、年金基金などの公的資金も含めたいわゆる第三者の資金を集めた投資ファンドを組成し、ベンチャー投資を行なうことも進めています。

事業の“目利き”についてイメージできましたか?

次は、当ゼミだけの特別大サービスです。

#Step03初公開。企業の“目利き”実践事例

企業の育成支援を担当する銀行の専門セクションには、事業の“目利き”の専門家がいます。ここでは、そんなプロたちが行なった実際の事例を通して、事業の“目利き”についての理解を深めましょう。

1)事業の“目利き”の5つのポイント

ここまでの講義でご理解いただいたように、「ベンチャー支援」と「株式公開支援」が融合したこれからの企業の育成支援には、事業の将来性を予測する“目利き”がもっとも重要です。そのため、こうした専門家の育成を目的として、一定の業務水準に達した候補生を外部のベンチャーに関連する機関に一定期間出向させ、実践の中でスキルを育む(ノウハウを吸収する)ことがあります。

このSTEPでは、そのような機関で多くのベンチャー企業の“目利き”を行ってきた社員の体験を基に、これからの講義を進めます。あなたも次の情報から、事業の“目利き”を試みてください。事業の将来性を検証するポイントは大きく5つに分けられます。資料5をクリックしてください。

資料-05

1) 事業の“目利き”の5つのポイント

(1) 技術またはサービスの新規性・独自性

(2) 技術またはサービスに対するニーズ・実現可能性

(3) 製品化までのスケジュール

(4) マーケットの妥当性(具体的なマーケットが想定されているか)

(5) ビジネスプラン全般の妥当性(事業計画の進捗、資金計画等)

それでは、“目利き”の実践事例にふれてください。

2)あなたも“目利き”にチャレンジ 事例1

「太陽電池用の製造装置」

太陽電池は光エネルギーを直接電気に変える発電設備である。地球温暖化の原因となる二酸化炭素や有害な排気ガスを出さず、太陽がある限り発電し続けるクリーンな発電設備として、世界中で脚光を浴び、開発が進められている。当社はこの太陽電池を作る為の装置を開発中。

この装置は太陽電池の基幹部品であるセルを製造する為の装置で、従来にはない革新的な方法を採用しており、特許も取得している。これを導入することで、太陽電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させることが出来る。完成次第、順次、太陽電池メーカーと商談をしていく方針。

これだけの情報では、5つのポイントの全ての判断は無理でしょう。みなさんは(1)新規性・独自性(2)ニーズ・実現可能性(3)マーケットの妥当性の3点を考えて下さい。○か×かで判断したら資料6をクリックしましょう。

資料-06

「太陽電池用の製造装置」の検証結果

(1)新規性・独自性 〇
・「従来にはない」「特許」という点では新規性・独自性がある模様。

・ただし、特許は必ずしも独自なものであるとは限らず、競合技術の存在も否定できないので、十分なリサーチが必要です。

(2)ニーズ・実現可能性 〇
・太陽電池のエネルギー変換効率は太陽電池普及において重要な課題の一つであり、これを解決する装置に対するニーズは強く、完成すれば、売れる可能性はある。

(3)製品化までのスケジュール ✖
・まだ商談にも入れていない段階では、いつその装置が製品化され、販売出来て、どれくらいの利益が見込まれるのか分からない。

(4)マーケットの妥当性 ✖
・確かに太陽電池は市場の成長が期待されるが、単に太陽電池というだけでは、漠然としている。太陽電池にも色々な種類があり、現在主流の結晶系太陽電池や薄膜系太陽電池、化合物系太陽電池など様々な種類があり、多くのメーカーが参入を開始している。より具体的なターゲットを明確化する必要がある。

(5)ビジネスプラン全般の妥当性 ✖
・成長が期待されるマーケットでニーズもあり、革新的な技術も持っているようだが、製品化のスケジュールが決まっておらず、具体的なターゲットも定まっていなければ、今後成長していくためのビジネスプラントとはいい難い。

・「企業」というよりは「発明家」に近い感あり。

あなたの判断はどうでしたか?“目利き”のプロがどんな点に注意して事業を判断するのかを事例から読み取ってくださいね。では、次の事例です。

3)言葉がわかるパソコンは〇か✖か 事例2

「話し言葉インターフェイスを持つパソコンソフト」

この技術は、従来の人工知能(AI)の原理(大量のデータベースの中から合致する答をひきだすイメージ)とは異なり、幼児が言葉を覚えていくように、話した内容からその人の「癖」をデータベース内に蓄えていくものである。従って、使えば使うほど、利用者の「癖」を知り、利口になっていくソフトといえる。ソフト自体は当初最低限のものしかデータベース化されておらず、構造上も極めて単純であるため、従来のAIとは比べ物にならないほど安価で市場性がある。

事例1と同様に、 (1)新規性・独自性(2)ニーズ・実現可能性(3)製品化までのスケジュール(4)マーケットの妥当性(5)ビジネスプラン全体の可能性の5点を考えてください。

判断を終えたら、資料7をクリックしてください。

資料-07

「話し言葉インターフェイスを持つパソコンソフト」の検証結果

(1)新規性・独自性 〇
覚えた癖を用いて自己訓練を行ない、解答を導き出すもので、人間の脳が思考するシステムに似ており、ソフト自体は極めて新規性が高い。

(2)ニーズ・実現可能性 ✖
シーズ先行型のプロジェクトである。この技術を用いてどのようなニーズに応えられるかが、そもそも不明。

(研究者自身が「こういう商品があったら良いのに」と思うのが「シーズ」、消費者が「こういう商品があったら良いのに」と思うのが「ニーズ」です)

(3)製品化までのスケジュール ✖
実用化レベルになった場合でも具体的な商品化は現状難しい。

(4)マーケットの妥当性 ✖
マーケットが存在するのか自体が不明。

(5)ビジネスプラン全体の可能性 ✖
この内容を実現するためにはさらに基礎研究が必要。

企業の育成支援業務を担当するセクションでは、このような視点で数多くのベンチャー案件を厳しく検証します。その結果、生き残った案件だけを育成支援の対象として業務化するのです。事業の“目利き”は体験によって磨かれることが多く、スキルとして体系化するのは難しいものがあります。それだけに、企業の育成支援担当者の責任は大きいですが、専門家としてのやりがいにも満ちています。

みなさんは、企業の育成支援のプロになれるでしょうか?

次のSTEPに答があります。

#Step04 企業の育成支援に求められる人材とは?

いま、企業の育成支援業務にもっとも求められているのは、企業の将来性を予測し、銀行のグループ企業をコーディネートする人材の育成です。企業の育成支援業務に必要なのはどんな人材なのかを学びましょう。

1)あなたに求められる3つの課題

「ベンチャー支援」と「株式公開支援」の2つの業務が融合しつつある今、あなたが企業の育成支援業務を担当するには次の3つの課題をクリアする必要があります。資料8をクリックしてください。

資料-08

育成支援担当者の3つの課題

(1)発想の転換(ハイリスク/ハイターン)

従来、銀行の資金の運用はローリスク/ローリターンが基本であり、人材の育成もこの考え方にそってきました。しかし、新たな企業の育成支援環境においては、ハイリスク/ハイリターンの考え方もよく理解している人材が求められます。

(2)将来価値の判断に重点→事業の目利き

その企業が持つ技術やアイデアから的確なビジネスモデルを予測し、将来の事業価値を洞察できる人材が求められます。いわば事業の目利きのプロです。

(3)総合的なコーディネート能力・ソリューション能力

支援する企業のどこに問題があるのかを見極め、問題の解決に向けて銀行グループの機能をコーディネートする能力や、実際に問題解決を行なうソリューション能力が必要不可欠です。

こうした人材に求められる資質・スキルとは、次のようにまとめることができるでしょう。

資料9をクリックしてください。

資料-09

今後求められる人材

取り組む意欲、探求心、洞察力については説明の必要はないでしょう。企業の問題点を発見し、将来の事業価値を判断するために当然の資質です。証券関連業務とは、ベンチャーファンドなどを利用した資金面でのソリューションを行なうための知識・スキルです。

証券関連業務の知識については、この単語だけでは非常に幅広い分野を連想されるでしょう。ここでは、株式公開をめざす企業が公開までの資本政策といわれるシナリオを描く際に、その内容が理解できること、すなわち金融商品取引法に定められた新株発行時のルールや社債発行時のルールなどを知っていることを指します。・・ご心配はいりません。このあたりの知識については、社会人になってから習得しても十分間に合います。

2)企業の育成支援を担当する専門家たち

こうした事業の目利きやコーディネート能力・ソリューション能力を持った人材は、銀行の中でもたくさんいるわけではありません。また、最初からそのような能力を持ち合わせている人は少なく、むしろ特別な経験を経て業務に就くのが一般的であるといった方が良いかもしれません(まさに経験がモノをいう業務であることは間違いありません)。

3)一人で銀行グループによる“企業応援団”を組成する

たとえば、企業の育成支援担当者は、事業の目利きを行ない、その企業が有望と判断したなら、銀行グループの各機能を活用し(コーディネート)、様々なニーズに応えるとともに、各企業の悩みについて問題解決(ソリューション)を図っていきます。各機能となる銀行のグループ企業との連携はこんな具合です。資料10をクリックしてください。

資料-10

銀行グループの連携

このように企業の育成支援担当者は、いわば“企業応援団”を組成し、取り組む“応援団長”のようなものです。しかし、応援団とは聞こえは良いですが、各グループ企業の間に存在する有形・無形の壁を乗り越えてコントロールする苦労も大変なものです。ただし、そうした苦労も、実際に企業の支援が公開や投資などとして形になった時、何にも代え難い喜びになるのです。

私自身も、目利きを行なった企業に対し、経営者の苦労も直接肌で感じながら数年にわたり各種の支援を行なった結果、初値(株式公開した最初の株価)がついた時には、思わず叫びだしたくなるような喜びとともに、心の底から「良かった」という気持で胸が一杯になりました。この業務は、先にも申しましたが、ハイリスクな業務である分、成功した時の達成感は最高のものだと思います。この業務に関心を持った方は、ぜひこの達成感が味わえるよう、最高の企業“応援団長”をめざしてください。

「企業の育成支援」ゼミもいよいよ終盤。

これからの銀行の対応にふれて講義を締め括りましょう。

#Step05企業の育成支援は、これからの銀行の使命

企業の育成支援業務は、産業と経済の活力を創出する銀行の使命です。この業務に携わる上で必要な心構えにふれて、講義を終えましょう。

1)私も、常に新たな支援策を模索しています

1時限目で勉強したように、ベンチャー企業の発掘、株式公開に向けた育成支援は、明日の大企業を育て、日本経済の活力を創出する上で大きな意義があります。しかし、新興市場における育成支援はハイリスクを伴うことも勉強しました。このハイリスクにどのように対処していくのか、私たち銀行も常に模索しています。

現在の一つの考え方は、企業への投資リスクそのものを減らすことは難しいので、投資後に企業のニーズに応じたヒト・モノ・カネの三要素を的確に供給していくことで、企業の成長確度を高めようとすることです。資料11をクリックしてください。

資料-11

企業の成長曲線モデル

的確な支援により、企業成長の“確度”を高める。

→本件では“角度”を高める

企業の成長を促進させていくことにより(ここでは企業成長の確度を高める)、投資リスクを低減しようとするのです。そのためには、絶えずその企業をウォッチし、必要な時に必要なものを供給すること。これが基本であり、いちばん大切なことでもあります。

必要なものについて、もう少し具体的にいえば、まず成長初期段階のベンチャー企業のニーズは圧倒的に資金ニーズです。一般的には、この時点では銀行の融資は困難であり、ベンチャーキャピタルなどを活用した投資による資金供給が図られます。その上で、企業の成長も見つつ、営業の支援として銀行のお取引先の紹介なども行ないます。

次に成長中期に入り、企業の規模も拡大し、成長が安定してくると、今度は資金供給の方法として銀行の融資も検討します。また、企業がより大きく成長するように経営戦略に対するコンサルティングや株式公開に向けた社内整備のお手伝いをしたり、人材が不足している場合には親密な人材紹介会社に応援を求めたりと、企業のニーズに応じ、必要なものを供給していきます。それもできるだけ速く。

こうした企業に対するキメ細かな支援を行なうために、アライアンス先(提携先)を増やしたり、できるだけコンサルティングにかかる企業の負担を安く抑えるにはどうしたら良いか、営業支援のための“出会いの場”(大企業とのお見合いの場所)の提供ができないか・・・などなど、育成支援の担当者は様々な仕組みづくりにも毎日アタマを悩ませています。

2)「オープンイノベーション」と「ベンチャーエコシステム」について

さて、ここで、もう少し異なる視点から「企業の育成支援」についてお話しします。最近よく聞くキーワードとして、「オープンイノベーション」や「ベンチャーエコシステム」という言葉を聞いたことがありますか?

今まで、個々の企業の育成支援について話をしてきましたが、社会の大きな動きの一つとして、最近、多くの大企業やベンチャー企業、そして中堅・中小企業まで含めて、「オープンイノベーション」に積極的に取り組む企業が増えています。

「オープンイノベーション」とは、優れた技術力やビジネスアイディアを持っているがヒト・カネ・モノといったリソースが不足しているベンチャー企業と、自社の既存技術やビジネスモデルに捉われないイノベーションに向けた取り組みが必要と感じている中堅・大企業が、お互いのリソースを開示し、今までにない全く新しい事業の創出や技術の開発に取り組むことを指します。

こうした動きが活発化する中で、銀行としても“出会いの場”(大企業とのお見合いの場所)を提供する活動を更にレベルアップさせ、企業間の「オープンイノベーション」に向けた取り組み支援を推進しています。全く異なる業種、ビジネス領域、事業規模の会社同士が、全く新しいビジネスや技術を創出することは、簡単なことではありません。しかし、銀行が持つ幅広いお客様とのリレーションや目利き力、そして、大学・研究機関、ベンチャーキャピタルなど様々なネットワークを活用して、こうした企業の挑戦を支援することは、まさにこれからの産業と経済活性化に向けた必要不可欠な取り組みです。

もう一つ、「ベンチャーエコシステム」についてです。先ほど「企業応援団」ということをお話しましたが、海外では、例えば米国シリコンバレーに代表されるようにベンチャー企業を支援するベンチャーキャピタル、大学・研究機関、政府組織、そして多くの事業法人が非常に強力なネットワークを構成していて、ベンチャー企業の発掘から育成支援をし、更に大きくなったベンチャー企業が次世代のベンチャー企業を発掘する、というエコシステムが構築されています。

一方で、日本においては、まだまだ途上の段階にあり、こうしたエコシステムを形作ることが、今後の更なる経済の伸長に向けて、銀行に期待されている役割と言えますし、多くの団体が協力し合おうと、様々な活動を行っています。個々の企業と向き合う際にも、こうした幅広い視点を持って、どうすることが有効な支援策に繋がるのか、考えることが重要です。

3)30年つきあえるパートナーシップ作り

こうして、銀行における企業の育成支援業務についてお話をしてきましたが、最後に私の実感を話しましょう。

銀行のお取引先とのおつきあいは、基本的には永続的に・・・というのが私たちの考えです。その点でいえば、育成支援先として狙うのは、少なくとも30年はおつきあいできる企業と、その経営者ということになります。

企業の育成支援を銀行の側面から見れば、企業が成長していく過程において様々なビジネスチャンスが生まれてくるわけで、息の長いおつきあいができなければ、せっかくの育成支援業務もあまり意味がありません。お互いがパートナーとして認識できる企業。こちらの専門家としてのアドバイスを素直に聞いてくれる経営陣。そして、多くの支援者を集められるビジョンと着実性、人間的な魅力を持った経営トップがいる・・・。こんな企業であれば、長いおつきあいを前提とした育成支援ができるでしょう。だから、この仕事は結局は人を見る目に行き着くのかも知れません。

これで、「企業の育成支援」ゼミはすべて終了です。

最後に、みなさんに向けた私からのメッセージを聞いてください。

まとめ

みなさん、「企業の育成支援講座」を最後まで受講していただき、本当にお疲れさまでした。

みなさんの若い力を、 ぜひこれからの企業の育成支援業務に活かしてください。

これからの銀行業務は伝統的なバンキング業務からソリューションビジネスへの取り組みに大きく変わろうとしています。そのような中で、ベンチャーといわれる成長企業に対する支援は必ず法人取引の中核になっていくものと確信しています。

今後、この業務を希望される人に必要なことは、企業の将来の姿を見抜く洞察力(いわゆる目利き能力)と、さらにその将来像に企業を少しでも近づけるためグループ会社も含めた様々な銀行のソリューション機能をコーディネートしていく能力だと思います。

これらのスキルは、自己啓発によるスキルアップだけではなく、経験によるところも大きいと感じていますが、業務に興味のある方はぜひ私と一緒にチャレンジしましょう。なお、他のゼミでも私の仲間がいろいろな講義を開講していますので、ぜひそちらも覗いてみてください。

法人戦略部 吉田 絵理